雲のむこう、約束の場所
『重ねたこの手を、今度は離さない
信じる力が、愛を自由にする
奇跡を待つより、この手をつなぎたい
信じる力が、私を自由にする』
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キーボードを叩く総士の手を見て、ふと思った。
「総士、ちょっと手出して」
「手? 何だ、いきなり」
「いいから」
分からないままに差し出された手。それに自分の手を重ねた。
大きさは同じくらい、でも俺の方が少しがっしりしてる。総士の方が少し、細い。
「一騎?」
「…いや。俺の方がちょっと大きいかな」
「…5mmも変わらないだろう。その程度で大きいとは言わない」
総士は意外と負けず嫌いだ、思わず吹き出してしまった。こんな風に笑ったら拗ねるって分かってるけど。
「何を笑ってる」
「いや、ごめん」
…一度は自分から離した手だ。
色んなことが一度に起こりすぎて何が何だか分からなくなった。
ずっと遠かった総士が急に近くなって、
――近くにいるのに分からなくなった。
1番いやだったのは信じたいのに信じられない自分だ。信じたかった、何を信じればいいのかも分からなくなっても。
だから知りたいと思った。分からないままでいたくなかった。
総士を信じたいから、分からないままでいたくなかった。
だから知るために離して
――
自分の知らないこと、総士の知っていることを知って
――
――ただ総士と一緒にいたいんだっていう、単純で大切なことに気付いた。
「…一騎?」
気付かない内に力を込めてしまっていた。どうしたって目だけで伝えてくる総士に、何でもないって笑い返す。何でもないことはないって気付いてるだろうけど、総士はそれで騙されてくれた。
「…行こう。そろそろ演習の時間だろ」
握った手をそのまま立ち上がる。総士もつられて立ち上がった。
重ねられた手はお互いの体温がうつって、少しだけあたたかくなっていた。
SONG BY 『This Love』
アンジェラ・アキ