Blutenblatt




「総士。見つけた」
「…乙姫?」


 聞きなれない足音だったから誰か気付くのに時間がかかった。
 振り向いてみるとそこにはやはり乙姫がいた。聞きなれなくて当然だ、乙姫は下駄を履いている。下駄だけでなく浴衣まで着込んでいた。皆城の家に乙姫の浴衣など置いていなかった筈だから、誰から借りたのか…、そう尋ねる前に、乙姫が嬉しそうに報告した。


「芹ちゃんとお祭りに行くって言ったらね、千鶴が貸してくれたの」
「ああ、そうか」


 やることなすこと全てが初めての乙姫にとっては何でも楽しいことばかりらしい。初めての浴衣に浮かれて皆に見せまわっているんだろう。
 良かったな、と言うと、乙姫は満面で笑った。


「うん」


 硬質な下駄の足音が廊下に響く。今度は誰に見せに行くんだろう。一騎か、それとも真壁司令か。

 走っていく乙姫の後姿を僕は複雑な気分で見送った。



 初めて自分の体で体験する何もかもが楽しい、と言う乙姫。
 短くても「皆城乙姫」として生きたいと願った。

 それが乙姫の望みなら叶えてやりたいと思うし、乙姫が喜ぶのなら出来る範囲で何でもしてやりたい。

 だけど。
 嬉しくて皆に見せまわっているその姿は、少しでも皆に自分の姿を覚えて欲しがっているようで。



 …生き急いでいるように、見えた。





ひらりひらりと





BACK