消せない、消さない。
許されないことをした。 許されてはいけないことをした。 竜宮島の墓地は少し山を登ったところに集中している。 目的の墓も他と同じように鎮座していた。 羽佐間家と彫られた黒い御影石。 辺りには誰もいない。 僕は供える花すら持って来なかった。 石の光沢に僕の姿が映っている。 黒い石なのに眩しく見えた。 そこに映ることすら許されない気がして、僕は一歩後ずさった。 「――」 僕は結局何もしないで立ち去った。 懺悔も謝罪もしなかった。 する必要はなかった。 してはいけなかった。 もしも誰かが僕を許すと言っても、僕はその手を拒絶する。 許しは請わない、懺悔もしない。 僕は今でもあれは必要なことだったと信じている。 だから何も言わない、何もしない。 それなのに来てしまったのは、きっと―― 誰よりも強い自責と自戒。 |