あの人の敵を全て屠ることが出来たなら、
最後の弾丸につらぬかれても構わない。







DER FREISCHUTZ








 …ッン…!

 耳障りとしか表現のしようのない轟音が大気を裂いた。
 引き金を引いた者が慣れた動作でスライドを引いた。ガチャン、という音がして空になった薬莢が床に落ちる。同時に次の弾が装填されたので、狙撃手は再び構えて右手の人差し指に力を込めた。

 …ッン…!

 2発目の弾が的を貫いた。同心円をいくつも重ねた円状の的の中央にはダルマの様な形の穴が開いている。上部の円は1発目、下部は2発目の弾痕だ。続けて撃たれた3発目、4発目は穴を少しずつ広げて、5発目の軌道はその穴を通過した。


「凄いな、お前さんは」
「…」


 キンッと、最後の薬莢が落ちる。その音を満足そうに聞き入れると、壮年の男は再度口を開いた。


「また腕が上がったんじゃいのか? 百発百中だな、ホークアイ中尉」
「…いえ、そのようなことは」


 男の口調には侮蔑や皮肉は一切込められていなかった。女性軍人が増えてきた昨今とはいえ、その配属先はまだ事務職がほとんどだ。銃を扱い前線に立つ女性に反感を持つ者もまだ数多い。謙遜した狙撃手――リザ・ホークアイはシューティングルームに来る度にそれらの視線に晒されてきたが、この男性からはいつも本心からの感嘆以外を感じ取ることが出来た。

 黒髪に白が混ざり始めた壮年の男性だった。上着を脱いで略式の軍服をまとっている。今はもう前線を退いて後進の指導に当たっているが、かつては広く名を轟かせた名狙撃手だった。ライフルの有効射程距離を遥かに超えた長距離から敵部隊の隊長を狙撃したという伝説の持ち主でもある。
 またそのような実力者だからこそ、性別など気にとめず純粋にホークアイの優秀さを認めることが出来るのだろう。
 万が一にも暴発しないよう、ホークアイは銃口を床に向けた。既に安全装置もロックされている。意識して行ったのではない。長年の訓練の結果身についた習慣だった。


「まぁ、そう言うなよ。聞いたぜ? 先日の一件。あのスカー相手に引けを取らなかったそうじゃないか」
「…少々情報が誤っているようですが。足止めをしていただいた上でかすっただけです。その評価されるようなことは…」
「ある、だろ? 今まで誰も手出しできなかった奴だぞ」
「いいえ、ありません」


 ホークアイは再び銃口を的へ向けた。新しい弾丸をライフルへ装填していく。
 1発、2発、3発と、次々に。


「確実に仕留められなければ、意味がありません」
「…中尉?」


 強情すぎるほどの否定に訝しがるが、ホークアイはそれ以上の会話を拒んだ。







 ホークアイの引く引き鉄に従って弾丸は的に吸い込まれていった。
 1発ずつ、確実に中央へと。








恋愛感情よりも信頼や忠誠の方が
強い中尉、といったイメージ。




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