「ほら」 「…何、これ?」 洋子は差し出されたカップの湯気をじっと見つめるだけで受け取ろうとはしなかった。椅子に座っている洋子では中身までは見えないだろう、ローソンは微苦笑して、カップをテーブルに置いた。 「ココアだよ。洋子くん、好きだろう?」 「…まぁ、好きだけど。何なのよ、いきなり?」 受け取りながらも憎まれ口のようなものを叩くのはもう日常茶飯事だ。今更ローソンも気にすることもない。息を拭き掛けて冷ましているのがいかにも猫舌の仕草で、まどかがいたらまた猫だの何だのと言い合うのだろう。想像だけなら楽しい情景なので、洋子には気付かれないように笑う。 「疲れてるかな、と思って。息抜きだよ」 「何であたしだけ?」 「今ここにいるのは君だけだろう?」 「…ふーん」 あ、そう、などと呟き、洋子はやっとココアに口をつけた。 ローソンが向かいに腰を下ろしても洋子に気にした風はない。今の彼女の興味はココアに釘付けだ。ローソンが手にしていたのは洋子とは対照的にノンシュガーのコーヒーで、彼女と違い猫舌でもないのですぐに飲み始める。 わざわざブリーフィングルームにいる3人ではなく、外に出ている洋子を探してまでココアを差し入れたローソンの意図は一体いつになったら気付かれるのだろう。 早く気付いてほしいと思う反面、焦る気持ちもないのでこのままでもいいかとも思う。 少なくとも今は。 「…ありがと」 この少し恥かしげに照れた笑顔が見れるから、それだけで。 …実際にこの2人がここまで 純愛するとは思えませんが… |