恋をしただけ、ただそれだけのこと。






 サラサラとハウルの指の隙間から銀色の髪が零れ落ちていきました。ハウルの最愛の妻の髪は、彼曰く「星の光に染まって」いて、真昼の太陽の光を浴びてきらきらと輝いています。サラリと髪が指をすべる感触が楽しくて堪らないハウルは、髪が全部すべり落ちるとまた髪をすくい上げました。


「ねぇハウル、私の髪の毛なんか触っていて楽しいの?」
「勿論だよ、愛しい奥さん。君の美しい髪に触っているのは最高の幸せさ。いつまでもこうしていたいよ」


 ハウルは最高に幸せそうに微笑ってソフィーの髪に口付けました。ハウルの微笑はとても綺麗でとても艶やかで、どんな女性でも一瞬で虜にしてしまいます。その上ソフィーに向ける笑顔には愛情という最高のスパイスが加えられるので、ソフィーはいつも胸を高鳴らせるばかりです。
 ソフィーは編み棒を2本重ねて膝の上に置きました。ハウルの黒いままの髪にもお日様が注いで艶々と輝いています。ハウルの黒髪は光り輝く金の髪とはまた違う、神秘的で深い美しさがあります。


「本当に美しいのは、ハウル、あなたの方だわ。あなたは髪の毛だけじゃなくて全身が美しいのよ」
「何を言ってるんだい? ソフィー、君はとても綺麗だよ。誰よりも綺麗な人なんだ」
「ハウルってばいつもそうね。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞なんかじゃないってば! ああ、君はいつになったら分かってくれるんだい?」


 ハウルがどれだけ褒めてもソフィーはくすくす微笑うばかりです。ソフィーは全く自覚できないのですが、ハウルの言っている通り、ソフィーの笑顔はそれはそれは美しいものです。ハウルのような艶やかさや妹のレティーのような派手さには欠けますが、荒地でも凛と咲く野花のような、控えめながらも快活で、華やかで、人を惹きつけてやまない美しさです。
 ソフィーは帽子屋として町に住んでいた頃は全然目立たない存在だったと言いますが、ハウルにはそれがとても信じられませんでした。2人が出会った5月の祭りの時、ハウルは何て綺麗な女の子なんだろう、と見惚れて、半ば反射的に助けたのですから。

 あの町の男達の目は揃いも揃って節穴なんだ!

 ソフィーの魅力を語らせたら世界中の誰にだって負けないハウルですが、彼にも2つだけ知らないことがありました。
 ソフィーが美しくなったのは、ハウルに出会えたからと言うこと。そしてソフィーの本当の最高の美しさは、ハウルにしか見られないということです。


「君はこんなにも美しいのにね。愛しているよ、ソフィー。僕の大切な奥さん」
「美しいって言うのはハウルみたいな人のことを言うのよ? 愛してるわ、ハウル。私の大切な旦那さま」


 2人はどちらからともなく顔を近づけて、そっと唇を触れ合わせて微笑い合いました。愛情と幸せに彩られた2人は、それはそれは美しく、それはそれは綺麗な笑顔でした。








もしこれを居間でやってるなら、
カルシファーはさぞ居心地が
悪いでしょうね…






BACK