1/3の純情な感情 1
猛々しい。荒々しい。眼力だけで射殺されてしまいそうな。
何度も見たことはあるけれど、向けられたことは初めてだ。
この目は彼が強敵と合間見える時の。
「十代目」
「何」
気圧されそうになる、けど、怯むわけにはいかない。余裕綽々に見えるように笑って答えた。多分いつもの獄寺君にならあっさり見破られる程度の虚勢だった。
「十代目は、オレがいなくなった方が嬉しいんですか」
「そんなわけないだろ。獄寺君がいなくなったら寂しいよ」
「じゃあ、何で」
噛み付かれた。
キスなんてものじゃない。唇が切れて血がにじむ。いつになく強引に舌が割り入ってくる。強く吸われた舌はそのまま食い千切られるんじゃないかって思った。
こんなキスは初めてだなって思ったけど、ああ、それ以前に、獄寺君の方から仕掛けてきたこと自体が初めてだったんじゃないかな。いつもいつもオレからしかしなてないから。
「…怒らせてみたかっただけ、って言ったら、もっと怒るのかな」
「…は? …何なんですか、それ」
「その通りなんだけど。獄寺君は今までオレに本気で怒ったことってないだろ」
勿論それだけじゃないけど、そこまでは言ってあげない。そこだけは自分で気付いてくれないと、さすがに寂しい。
「初めて見たな。君のそんな顔」
「…十代目」
少しだけ力の弱まった目が、ちょっとだけ困ったみたいに睨んでくる。
オレは、ちょっとだけ笑う。
君のそんな顔も好きなんだよって言ったらもっと困らせてしまうんだろうか。
「オレは、一生貴方のお傍にいます。絶対に」
「うん。オレも獄寺君がいてくれないと困る」
もし本当にそんなことになったら「困る」程度ですむわけがない。
けど今は、これ以上は言わないことにした。