「何しろあの爆発だったからな…イージスの時とは状況が違う」 「…やはり、ですか」 「ああ。…まぁ、そういうことだ。残念だが…」 「いえ…仕方のない事です」 仕方ない。そう、仕方のない事だ。 突発的な行動だったとはいえ、その覚悟もなく出来ることじゃない。 ましてジェネシスの内部だ、命が助かっただけで運がよかった。 そう、仕方のない事なんだ―― 「…アスラン? どうしたんだ、お前?」 「え? あ、カガリか。いや…」 「何かあったか? さっきドッグの方に行ってたみたいだけど――」 「いや、何も――」 「嘘吐け。絶対に何かあっただろ。それでもってへこんでる」 そう言って覗き込んでくるカガリの顔は、心配半分、批難半分、と言ったところか。俺の様子がおかしいのを心配しているけど、それを言おうとしない俺に憤っている、ということだ。 最近のカガリは随分と勘が鋭くなった。俺が気落ちしているとすぐに気付く。 気にかけてくれていることは分かるし、励まそうとしてくれるのは嬉しい。…が。 …俺自身自覚していないことや、隠そうとしている事まで気付かれるから、少し厄介だ。 俺が本当に言い難い事は聞かないでくれるが、そうでない事は全部白状するまで解放してくれない。 今もしっかりと俺の両腕を掴んで離さない。まったく、この華奢な腕の何処にこんな力があるんだか…。 「何もなかったさ。ちょっと話を聞いただけだ」 「どんな話だったんだ?」 「ジェネシスの跡の…。ジャスティスの回収は不可能だ、と」 「え、それって…」 「内部で自爆したからな。ジェネシスの部品やデブリと一緒になって判別できないんだ。そもそもあれだけの大きさの建造物だ、主要なパーツの回収も難しいという話で――カガリ?」 俯いたからどうしたのかと思うと、カガリは急に抱きついてきた。左腕は俺の背に回して、右手は俺の頭を撫でている。 …俗に言う「よしよし」と言う状況なんだろうが…。 「カガリ! 何なんだ、一体…」 「大丈夫だから、黙ってろ」 「…」 何が大丈夫なんだ、と聞き返したいのは山々だったが、とりあえずはされるがままにしておくことにした。 カガリは背中に添えていた左手も定期的にポン、と軽く叩いてくれる。 どうにも落ち着かないのに安らぐ…、不思議な気分だ。母親に甘えている子供みたいだなと失笑を漏らす。 「…何を笑ってるんだ?」 「いいや、何でもない」 「…ならいいけど。 ――大丈夫、だからな」 カガリは大丈夫と繰り返してまた背中を軽く叩いた。優しくあやすような手つきはとても暖かい。 「――お前を守って、お前の望みを叶えたんだから、きっと、安らかに眠ってるさ」 「――ああ…」 俺はカガリを抱き返した。強く、だけど優しく。 腕の中のカガリのぬくもりが、俺の中の氷を溶かしてくれる。 ジャスティスが回収出来ないのは仕方のないことだ。だけど――俺の大切な愛機に2度と会えないのは――その欠片すら手に出来ないのは――悲しい。 告げられてすぐには自覚できなかったのは、仕方がないからと無理に自分を納得させようとしていたからで、だけど納得出来ない気持ちがしこりになって残っている―― ――まったく。どうしてカガリは気付いてくれるんだろう。 俺が弱った時はいつも、優しい一言を告げてくれる。 この娘は本当に―― 「…ありがとう」 抱き締めた腕で少しでも君にぬくもりを返してあげることが出来たなら。 きっとそれを、最高の喜びと言うのだろう。
何よりも大切な君、
誰よりも大好きな君 |