いつかと予感していた。 いつかきっとこういうことになるんだろうと。 「…行くんだな」 「…ああ…」 笑おうとした。少しでもアスランの気が軽くなるように。だけどアスランは辛そうな顔を見せるばかりで、きっと失敗してる。 ああ、ラクスが羨ましい。あの娘ならきっとこんな時も上手く微笑えるんだろうに。 この数年で感情を抑えるのは大分上手くなったと思っていたのに全然駄目だ。どうしてこの肝心な時に、ただ笑うことすら出来ないんだ? 笑って見送ろうって決めてたんだ。アスランが気持ちよく出立できるように。 こんな顔はさせたくないから。 「すまない、カガリ。俺は…」 「…なんで謝るんだよ。お前はお前のしたいことを見つけたんだろ? ならそれをすべきだ。そうじゃないか?」 「しかし…! …俺はお前の補佐をすると決めたのに、こんな…途中で放り出す真似を…」 「仕方ないさ。私とお前は別の人間なんだ。目指すものが違ってくるのは当然だ。だから…」 私は私の目指すものを、アスランはアスランの目指すものを求めるべきなんだ。 そうだろう? ――アスラン。 アスランはもう1度すまないと言った。私はもう1度笑おうと頑張った。 今度はちゃんと笑えたと思う。でも、アスランは余計に辛そうに目を細めただけだった。 …本当はアスランに離れてなんか欲しくない。 大切で大好きな人だから、ずっと傍にいて欲しい。辛い時には抱き締めて欲しい。名前を呼んで頭を撫でて欲しい。私が何か間違ったことをしたら手助けして欲しい。 だけどこんなのは私の我侭でしかなくて。アスランにだってしたいことはあるのに、それを全部無視してる。 私の補佐として奮闘してくれている間も、アスランはずっと悩んでた。これでいいのかって。もっと自分に出来ることがあるんじゃないのかって。 それはアーモリーワンで戦闘に巻き込まれてから更に強くなっていた。私の補佐をしているから出来なかったことも沢山あって、その度に歯がゆい思いをして―― だけどもう、限界だ。これ以上アスランを留めておけない。アスランは私から離れていく。 それならせめてアスランが気兼ねなく出立できるように、笑って見送るべきだろう? 「行って来い。私は大丈夫だから、アスランはアスランのしたいことを…」 「――すまない、カガリ。ありがとう――」 一瞬だけ抱き締められると、まるでお父さまに抱き締められた時みたいに、ふわり、と懐かしい匂いがした。 アスランはやっと笑ってくれた。無理をしているのが丸分かりのぎこちない笑顔。 下手くそな作り笑いも私のためのものだから、とても嬉しい。少しでも笑ってくれたのが、とても嬉しい。 「…行って来い」 遠ざかる背中を追いかけたかった。恥も外聞もなく泣き崩れても止めたかった。だけどそれは出来ないから、もう隠しようのない泣き顔で、ただ一言だけ呟いた。 「――死ぬなよ」 アスランは答えなかった。ただ一度だけ振り向いて、切なく、微笑った。
別れてもいい、
離れてもいい。 ただ生きていてくれるなら。 |