episodo1






「TRICK OR TREAT!」
「…はぁ?」


 事態を理解できずにぽかんと口を開けたアスランに指を突きつけ、もう一度カガリは同じ台詞を繰り返したのだった。




「何なんだ、いきなり…?」
「ハロウィンだよ、知らないのか?」
「いや、一応知ってはいるが…」
「だったらほら、早く! お菓子をくれないと悪戯するぞ?」


 そう言ってずずいっと手を差し出すが、勿論アスランはお菓子なんて持っていない。部屋中を引っくり返しても、ない物はない。そのことはいつもアスランの部屋を殺風景だと喚いているカガリが一番よく知っているだろうに。
 …とすると、カガリの目的は悪戯の方か。

 普段あれやこれやと言い包められている反撃がしたいのだろう。カガリの目はさぁ今すぐ降参しろと、溢れんばかりの輝きを放っている。カガリがどんな悪戯を企んでいるのか興味は湧くが、かといってこのまま黙ってやられるのも面白くない。アスランはカガリが急かすのも聞き流して思案し、そして。


「…ああ、そうだ」
「ん? お菓子を持ってくる気になったのか?」


 そんなのないだろと言外に示しているのが丸わかりで、アスランは見様によってはかなり不穏な笑みを浮かべ、いいや、と頭を振った。


「お菓子はないけど甘いモノならあるぞ」
「…何?」


 ぴくり、とカガリの眉がはねる。


「何処に何が。まさか砂糖だなんて言う気じゃないだろうな」
「いいや、全然違うさ」
「じゃあな」


 に。


「…」


 唇の感触は一瞬だけで、カガリの顔に落ちた影もすぐに離れる。半ば放心状態で見上げるカガリに、アスランは表情には出さずに勝ち誇った。


「甘いだろう?」
「…っ! 何考えてるこの馬鹿野郎ー!!」




 翌日頬に手形をつけながらも何処か満足そうなアスランがいたとかいなかったとか。








結局悪戯をしたのはアスランの方だという話。
つか暴走気味だ…




BACK