クラシック
「信じられない」 「…」 「何考えてるんだ、お前」 「…」 何も、と言いたいところではあったが、アスランは賢明にもその言葉を飲み込んだ。さすがにこれ以上墓穴は掘るべきではない。 「…今日は私の友人のソロデビューのコンサートだったんだ」 「…ああ、知ってる」 行く前に散々わめかれ聞かされたから、嫌でも覚えてしまった。 「まだ二十歳にもなってないのに、国立の交響楽団でソリストを務めるんだぞ。どれだけ凄いことなのか分かってるのか?」 「…わかってるさ」 いくら自分が音楽方面には疎いと言っても、その凄さくらいは想像がつく。 「その記念すべきコンサートに、私を招待してくれたんだ。チケット二枚でな。もちろん私は二つ返事で喜んださ」 「…だろうな」 カガリのことだ、目を輝かせて飛びついたに違いない。 「で。もう一枚のチケットをどうしようか、もの凄く悩んだんだぞ」 「…」 「キラを誘おうかとも思ったけど、クラシックには興味がなさそうだし。…一応彼女に悪いしな。…それで、最近お前とも会ってなかったから。丁度いいと思って誘ったのに――」 ぎゅっとアスランの胸倉を掴む力を強め、カガリは下から睨み上げた。 「どーして寝るんだ、お前は!? 演奏者に失礼だとは思わないのか!?」 「…だから最初からクラシックは苦手だと言ったぞ、俺は! それでも人の話を聞かずに引っ張って行ったのはお前だろう!?」 「苦手だって言ってもな、よりによって寝るか!? いついびきをかくか怖くて演奏に集中できなかったじゃないか!」 「誰がいびきなんかかくか!」 ぎゃいぎゃいと言い争いは続く。 10分もたった頃か、何かを諦めたようにカガリがため息をついた。 「…おまえなぁ…。一応はいいとこのお坊ちゃんだったんだろ? よく今まで化けの皮が剥がれなかったな…」 「…コンサートとかは極力避けてたんだよ。今までに行ったことがあるのはラクスと、あと友人のピアノコンサートくらいで…」 「…何?」 ぴくり、とカガリの目が光った。大分緩まってきていた手をアスランに外されるままにして、徐々に眼光だけが強まっていく… 「ちょっと待てアスラン。お前、ラクスのコンサートじゃあ寝なかったのか?」 「え、…まぁ、一応は…」 それでも言うほど面白くはなかったが。ラクスには悪いが、やはり自分は音楽向きではない。 「…」 「…カガリ?」 「…よし、分かった」 にやり。 そんな形容詞がぴったりの笑い方で肩を叩かれたら、アスランでなくとも嫌な予感を感じるものだろう。 「な、何が分かったんだ?」 思わず逃げ腰になるアスランだが、その方を掴む力は妙に強くて逃げられない。 …そう。みょ〜に強かったのだ、彼女の力は。 何が「分かった」のか非常に怪しい「分かった」顔で、カガリが微笑む―― 「お前歌は大丈夫なんだな? じゃあ次はオペラに連れて行ってやる!」 「…な…!?」 「オペラなら歌劇だからな、ストーリーもあるから退屈はしないぞ、うん」 「ちょっと待てカガリ、お前何を言って…」 「お前にクラシックの良さというものを教えてやる。まずは寝ないことから始めるぞ!」 「…」 (余計な)意欲に燃えるカガリに対して、アスランが心の底から止めてくれとぼやいていたことは…あえて言う必要のないことだろう。 カガリはクラシックに強そう。 …ところでキラの彼女って…? <考えてないんかい |