嫌だけど嫌じゃないキス






 最初に大きなツリーにしよう、と言ったのはカガリだった。それにラクスがいいですね、と同意し、キラも続けて頷く。こうなるともう俺の意見なんか蔑ろにされるのがいつものことなので、特に反対もしなかった。
 4人でのクリスマスパーティがお開きになって、片付けも終わり。そろそろ日付も変わるから寝ようか、という頃になって、カガリが真下からツリーを見上げていた。
 断続的に灯るイルミネーションの下、多少雑多になった感のあるツリーの飾りを見上げるカガリの顔は、小さく微笑んでいて。嬉しさと幸福さがいっぱいに詰まった、とても綺麗な笑顔だったから。
 背後に立つ俺に気付いたカガリが振り向いた瞬間、キスをしていた。

 出来心と言ってしまえる行動の結果だ。
 彼女は不意打ちのキスを嫌う。とは言え本心から嫌がっているのではなく、心の準備が出来ないからというのはその後の彼女の言動から明らかだ。顔を真っ赤にしてうろたえる姿が可愛くてわざと不意打ちに仕掛けたことも一度や二度ではない。
 だけど流石に俺もこんな時にキスをするつもりなんかなかった。ツリーが陰になっているとは言え、同じ部屋の中に人がいる。人に自分のキスシーンを見せる趣味なんて俺にはないし、当然カガリにもない。
 だからかなり怒るんだろうな、と考えに至ったのは、衝動的に交わしたキスが終わってからだった。

「…」
「…?」


 当然来ると思っていた罵声は、しかしいつまで経ってもやって来なかった。怒鳴る代わりに悔しそうに口をへの字に曲げて、くそ、と呟く。


「…怒らないのか?」


 紅潮した頬を隠すように俯いたカガリに問いかける。後頭部に添えていた手でそのまま髪を梳くと、さらり、と手の中を金の髪が滑っていった。
 当然とも思える俺の疑問に対し、カガリは不可解そうに眉をひそめて顔を上げた。


「怒るって、何で?」
「いつもは怒るだろう、いきなりキスをしたら」
「そうだけど。…これは怒る訳にはいかないし」
「…?」


 今度は俺が眉をひそめる番だった。怒る訳にはいかない、とはどういう意味なのか。怪訝に顔を傾げる俺に、カガリはもしかして、と続ける。


「…お前、知らなかったのか? クリスマスの夜にツリーの下にいる人にはキスしても許されるって」
「…何々だ、それは」
「習慣って言うか、言い伝えって言うか、そういうものだ。…本当に知らないのか?」


 勿論俺はああ、と頷く。
 そんな習慣があるなんて初耳だ。だから怒る代わりに悔しがったのか、とすぐに納得はいったが、しかし。


「…キスされたくない奴にされたらどうするんだ」
「どうもしないさ。だからツリーの下に行く時は注意しないといけないんだけど」


 4人だけのパーティだから、とリラックスしすぎていて、そこまで頭が回らなかったらしい。
 …怒鳴られないのはいいが、それの理由が習慣だから、というのはどうもいい気分がしない。それにカガリの言う通りならキスをされたくない奴――仮にカガリが俺以外の男にキスされても許されるということで――


「…カガリ」
「アスランがいない時にはツリーの下なんか行かないからな、余計な心配はするなよ?」
「…」


 そう言うカガリの口調はふふん、と勝ち誇っていて。
 馬鹿みたいな嫉妬に気付かれた俺は、ああ、とばつの悪い返事をするしかないのだった。








本当にこの習慣って
あるのかなぁ?
<未確認…

ありました。
有難う親切なお客様…!(笑)




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