強き意志を歌声に換えて







「おめでとうございます、ラクス」
「まぁ、ありがとう。可愛い花束ですわね。カガリさんが選んだんですか?」
「ええ、そうですが…。よくわかりましたね」
「ふふ」


 楽しそうに笑うだけで理由は教えてくれなかったが、さすがに俺にも簡単に気付いてしまった。
 この花束はピンクのダリアをメインにして数種類の花を見事にコーディネートしている。…こんな可愛らしい花束を俺が作れたら奇跡だろう。
 カガリが公務でどうしても来られないから、せめて、と用意した物だ。


「カガリが心から残念がっていましたよ。折角の初コンサートなのに、と」
「私もカガリさんに聞いて欲しかったのですけれど…。残念ですわ」
「次は絶対に何があっても来る、と意気込んでました」
「まぁ、カガリさんらしい…。それでは早く2回目を開かないといけませんわね」


 そうですね、と相槌を打ちながらも、嫌な考えが脳裏を付いた。
 次はあるのだろうか、と。

 今夜、ラクスのソロコンサートが開かれる。
 会場はある中立国の国立劇場――即ち、地球だ。
 プラントと地球の文化交流の一環として開かれることになったこのコンサートは、地球でのラクスの歌姫としての評価が問われる以上に政治的な色が濃い。
 プラントの歌姫――コーディネーターの芸術家を地球側が認めるか否かが、このコンサートの成功にかかっていると言ってもいい。成功したなら次もまた必ず行われるだろうが、しかし――

 …昨夜俺は、カガリから1つ頼まれごとを受けた。
 ラクスを守ってくれ、と。

 戦後初めてのコーディネーターのコンサートだ。ブルーコスモス等のテロリストには格好の標的だろう。事実、テロの兆候があるとの情報も入って来ている。

 だがラクスは殺させはしない。  ラクスは大切な友人の1人だ。カガリにとっては親友と言ってもいい。そしてこれからの平和に向けて、重要な立場にある1人でもある。

 易々と殺させる訳にはいかない。絶対にだ。


「…そろそろ時間ですわね」
「もうですか? …ああ、本当だ」
「ええ。では、行って参ります。頑張ってきますわ」


 ふわり、と柔らかに微笑む彼女は、今夜起こるかもしれないことを知っているのだろうか。
 …おそらく、知った上で微笑んでいるのだろう。ラクスはそういう人だ。
 彼女は誰にも不安を見せない。今までも、そしてこれからも。ただ1人を除いては――


 俺はラクスを追って舞台袖に向かった。本来なら俺は部外者だが許可は取ってある。何か合った時にすぐに対処が出来るように。大切な友人を母のように死なせないために。

 絶対に、守ってみせる。








その優しい微笑みが
平和の証となりますように



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