占い






 その場面に遭遇したのは偶然とも言えるし、必然とも言える。



 MSのソフト面の調整について試行錯誤していたら、いつの間にか昼食の時間をとっくに過ぎてしまっていた。冷めているかもしれないが食べないよりははるかにマシだということで、キラとアスランは食堂に向う。後数メートルという距離までやって来て、時間的に人気の少ないはずの食堂から聞こえてきたのは、馴染みのある少女達の馴染みのない爆笑だった。


「あーっはっはっは! っはは、ふ、あははははははっ」
「ふふ…うふふ、あははは…!」
「…?」


 思わず顔を見合わせる少年二人。視線で何なんだ、と問いかけられても、キラに答えられるはずもなく。とにかく行ってみようと歩を進める。そして食堂の扉をくぐって見た光景は予想を裏切らないものだった。


「…っ! …はっ、ぃ…!」
「…ふふ…! …っ、…!」


 ばんばんと机を叩くカガリと、お腹を押さえるラクス。笑いすぎてもう声も出ないのか、息の漏れる音だけがしている。


「…何をそんなに笑ってるんだ、二人とも?」
「何か楽しいことでもあったの?」


 いくら楽しいことにしてもこの笑い方は尋常じゃない。キラもアスランも不審に眉を顰めて少女達に近づいた。声を掛けられてやっとその存在に気付いたのか、カガリが少年達の方を向く。


「あ、キラ。アスラン。…っくく…」


 二人の顔を見て再び波が押し寄せてきたらしい。廊下まで響く爆笑がもう一度放たれる。ラクスも少年達を見留めると、ぷっと吹き出した。


「い、いけませんわカガリさん。そんな…顔を見て笑うなんて…ふふっ」


 一応はカガリを諌める台詞でも、ラクス自身が笑っていては説得力がない。全く事情を飲み込めない少年二人は、何なんだ一体と、顔を見合わせた。
 ひーひーと苦しそうに腹筋を震わせながら、カガリは二人に手招きする。とりあえずは誘われるままに近づくと、珍しくラクスがコンピューターの端末を触っていた。


「おっ、お前ら本っ当にいいところに…! こっちこいよ、面白いモノ見せてやるから!」


 ほらラクス、とピンク色のお姫様をせっつき、ラクスもはい、とすぐに目的の画面を表示させる。まったくプラントとオーブのお姫様二人が揃って何をやっているんだかと、アスランは気付かれないように嘆息した。


「ほら、こちらですわ」
「…?」


 映し出されたのはあるホームページの説明画面だった。ざっと目を通してみると、どうやら姓名や生年月日、性別等を入力して性格や相性を占うことができるらしい。しかしこのページがどうしたというのか。


「これが何か…?」
「ちょっと時間が出来たからさ、息抜きに遊んでみようかと思って。な、ラクス」
「ええ。それで自分達を終わらせたら、カガリさんがキラ達もやってみよう、と言うので…」
「占ってみた、と? そういうことですか?」
「ええ」
「はぁ…」


 事情は把握できたが、それではあの爆笑は何だったのだろう。そんなにおかしな結果だったというのか?


「で、どうだったの?」
「うん、それがな…」
「…うふふ」


 少女二人で含み笑いを浮かべつつ、次にキラの占いの結果の画面が出てきた。


「どれどれ…」


 少年達が覗き込んだ画面にはこう書いてあった。曰く。


『基本的には温厚で人好きのする優しい性格です。優柔不断な面もありますが、いざと言う時には周囲を吃驚させるような行動を取ることも。責任感や正義感も強いですが、それが仇となって色々と溜め込んでしまい、ちょっとオカシクなってしまうこともあるでしょう。本格的にオカシクなる前に周囲の人が優しく慰めてあげましょう。また嘘のない性格からか、無意識にスケコマシになる可能性が高いので注意!』


「……………」
「凄くぴったりですわよね」
「な」


 なぁ、と同意を求められたが、アスランはとりあえず黙っておくことにした。


「で、次がアスラン」
「どうぞ」


 次に表示されたアスランの結果は、曰く。


『面倒見が良く世話好きなお兄さんタイプです。ただし自分が何でも一通りこなせるために、面倒を見ている人物が中々行動に移さなかったり成果が上がらなかったりすると苛ついてしまうこともしばしば。責任感と義務感が非常に強く、逆に自滅しかねません。そんな時は周囲の人が活を入れてあげると良いでしょう。自分の恋愛感情の自覚が遅く、気が付いたら他の男に取られていた、ということになっていたりしますので、行動は早くに起こしましょう』


「……………」
「すごいぴったりだろ」
「ですわね」


 ねぇ、と同意を求められたが、とりあえずキラは黙っておくことにした。


「それで、だ。これからが本番」


 にんまり。そう表現する他ない不吉な笑みを、少女二人が同時に浮かべる。少年二人は思わず逃げ腰になったが、いつの間にか掴まれていた腕がそれを許さない。
 次に何を見せられるのか、悲しいことに想像は付く。正直言って二人とも見たくはなかったが、絶対に見るまで解放されないことは容易に想像できた。二人が同時についたため息は、冤罪で死刑台に登る者の諦めによく似ていた。


「…で、何が本番なんだ?」
「これだよ、これ! ほらラクス!」
「今出ますわ。…ほら」
「えーと…?」


 そうして少女二人の爆笑の原因となった占いの結果とは、曰く。


『キラ・ヤマト(16歳・♂)とアスラン・ザラ(16歳・♂)の相性  100%
 最強無敵のラブvラブカップルです。小さい頃から家族ぐるみのお付き合いだったりしませんか? もしそうなら、近い将来家族公認になれます。一時期別れてしまって酷い喧嘩をしてしまうかもしれませんが、大丈夫、絶対に乗り越えられます。そしてその暁には永遠の愛が約束されるのです』


「……………」
「……………」
「…っぷぷ、あはははははっ!」
「ふふ。うふふふ…!」


 画面を食い入るように見つめて硬直する少年二人と、その背後で爆笑する少女二人。実に対称的な光景である。たっぷり三分間は固まった後に、ギギィ、とでも音がしそうなぎこちなさで、キラとアスランは顔を見合わせた。


「…ねぇ、アスラン」
「…何だ」
「僕にそーゆー趣味はないからね」
「俺にだってないぞ、そんな趣味」
「大体なんで同性の相性なのに友情じゃなくって恋愛で出るんだよ」
「そんなこと知るか。占った本人に…」


 聞けばいいだろう、と言おうにも、相手はコンピューターだ。聞ける訳がない。
 そしてデータを入力した人間達はと言うと、二人の背後で笑い転げたままである。


「あーっははははは、おっ、おなか痛…! っはは…!」
「…っ、ふふ…! あは…!」


 ラクスが大口開けて笑うなんて初めて見たなぁ、とキラは半ば現実逃避のように考えた。
 キラとの相性がコレなら生年月日が同じカガリでも同じなんじゃ、ああでも名前と性別が違うから無理かと、アスランは半分以上意識の跳んだ頭で考えた。

 そして端末の電源を同時に落としたことでさらに息ぴったりだー、とお姫様たちが声を大きくするのを横目に、二人は諦めて食事のトレイを取りに行ったのだった。








占いの結果は勿論デタラメです。
<言わなくても分ってるから

ええと一応キララク+アスカガ?
むしろカガリ+ラクス>キラ+アスラン。
男共負けてます。




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