episodo2






「TRICK OR TREAT?」
「…あなた子供じゃないでしょ」


 開口一番の決まり文句に、ミリアリアはあっさりと冷たい指摘をしたのだった。




「ま、そうだけど。いーじゃん別に。こーゆーのってノリの問題なんだし?」
「ああ、そう」


 ため息交じりに呆れられてもディアッカに応えた様子はない。ミリアリアのつれない反応にはもうとうに慣れてしまった。むしろ最近では楽しんでいるくらいだ。彼女がそんな風に接するのはディアッカに対してだけなのだ。どんな形にしろ、特別扱いと言うのはやはり嬉しい。


「で、お菓子はくれねぇの?」


 至極楽しんでいると言った顔を寄せる。こんな遊びに付き合ってあげるなんて私も人が良いのかしらなどと思いながら、ミリアリアはバッグの中を漁った。しかしもともとデートのつもりだったので、身嗜み程度に必要な小物ばかりのショルダーバッグにお菓子の姿など影も形もなく。ようやく飴が出てきたと思えば、飴は飴でも咽飴だった。


「…咽飴はお菓子になるの?」


 ほら、と差し出した咽飴を眺めて少し思案し、結果ディアッカは駄目、と判定を出す。


「やっぱり?」
「駄目。まだフルーツ味とかならオーケー出したけどね」


 ミリアリアが取り出したのは龍角散咽飴だった。


「じゃ、いたずらに決定な」
「何をする気なのよ…」
「先に言ったらいたずらにならないだろ?」


 目瞑って、と言われるままに瞼を下ろす。この様子だと先日から計画を立てて準備してきたのだろう。何をされるのかという不安もないわけではないが、ディアッカは彼女が本当に嫌がることはしないと分かっているので好奇心のほうが強い。
 ミリアリアは視界を閉ざしてすぐ髪が揺れたのを感じた。風ではない。明らかに意図を持って触れられるそれは、ディアッカの手だ。
 パチン、と金具が止まる音。


「…はい、終わり」
「…?」


 何をされたのだろう? 髪を少し触られただけで他には何も感じなかった。それともミリアリアが気付かなかっただけなのか?


「何したの?」
「ホラ、そこ」
「…?」


 ディアッカが指し示した先には店先のウインドウがあった。ハロウィンらしく愛らしいお化け達でディスプレイされたそこに填められたガラスが鏡の役割を果たしている。反射的に触れられた部分に目をやると、そこには小さなジャックランタンがくっついていた。


「…これ…?」
「そう、それ。プレゼント」


 ガラスに映るディアッカの顔はかなり満足気ににこにこしている。素直に嬉しがっていいのか複雑な表情で、ミリアリアはその髪止めに指を添えた。


「…これじゃいたずらじゃないじゃない」
「いたずらだよ。ミリアリアの髪の毛に勝手に触るいたずら」
「…」


 結局はこの髪止めを贈りたかっただけなのだ、ディアッカは。もしミリアリアがお菓子を持っていたとしても、お返しだとか何とか名目を付けて渡すつもりだったのだろう。容易に想像がついてしまうのは微笑ましいと言うか、何と言うか。


「…ありがと」


 明後日の方向を見ながら、ちっとも嬉しそうじゃないへの字口。
 全然お礼とは思えないその態度にも、ディアッカは喜色満面でああ、と頷いたのだった。








龍角散咽飴って
渋い趣味だなミリィ。




BACK