彼が私に触れたのはその時が初めてだったと、そう気付いたのはずっとずっと後のこと。




ねがい





 両肩に手を添えて、肩に頭を埋める。抱き締めるともいえないその抱擁の中、頬に触れる金髪に涙が吸い込まれた。


「ご免、な」


 繰り返される言葉を否定したいのに、何も言えない。嗚咽を抑えるために引き結んだ口がそれを許さない。


「笑って欲しかっただけなんだけど、結局俺は」


 ふ、と、息が漏れる音。彼が笑ったんだろうか。彼の表情は見えないけれども。


「…泣かせてばっかだったな」
「…ちが…!」


 彼が顔を上げた。今にも泣きそうな微苦笑――それとも自嘲?


「本当に好きなんだ――ミリアリア」


 手が、離れた。
 彼と私との間に距離が出来て、――もう、終わり。


「…ディアッカを――
「…何?」
「…ううん、何でもない」


 言うべきじゃない。言っちゃいけない。

『ディアッカを好きになれればよかった』

 そんな身勝手な台詞は。


「…元気で、な」
「…うん。あなたも」


 優しい人だった。本当に最後まで、優しい人だった。
 どうして好きになれなかったんだろう。彼とならきっと幸せになれた。不器用なまでの誠実さで、ずっと待ってくれていたのに。――惹かれていたのも、事実なのに。

 どうかと、願わないではいられない。

 ディアッカが次に好きになる人は、彼を好きになってくれるように。彼を幸せにしてくれるように。
 彼の優しさに甘えていただけの私には出来なかったことを、どうか。
 彼が次に好きになる人は、叶えてくれるようにと。








別れちゃってるよオイ。
でも一度は離れないと
幸せになれないと思うんだよねー…。




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