やさしい嘘






 夢を見る。
 何度も何度も。見なかった最期を。


 どんな風に死んだのかは聞いてない。その時の私はブリッジで計器を見ていた。
 だからこの死に方は、全部私の想像でしかない。
 ビームライフルを撃って、ビームサーベルで貫いて。あの赤い機体が、スカイグラスパーを落とす。


 聞けなかったトールの絶叫が、私の眠りを覚ます。



「…っあ…!」


 目が覚めて最初に思ったのは寝汗の不快さ。空調の行き届いた艦内が暑いなんてことはありえない。ならこれは全部、


「…」


 気持ちが悪いけどシャワーを浴びに行く気にもなれない。時計を見てみたら2時間しか寝てなかった。まだ眠って疲れを取らなきゃいけないとは分ってるのに、とても眠れるとは思えない。


(…水でも飲も…)


 気だるい体を叱咤してベッドから下りる。幸いと言うべきなのか、ここから食堂までは近い。きっと誰とも会わずに帰れる。


「…あれ」
「…ディアッカ…」


 …運が悪い。
 どうしてよりによってこんな時にディアッカと会うの。誰とも会わないで、そのまま部屋に帰りたかったのに。


「どうしたんだ? 顔色悪いぜ」
「…何でもない。ちょっと夢見が悪かっただけ」
「…ふぅん」


 ディアッカは何か言おうとしたみたいだけど、そのまま口にすることは無かった。
 そしてそのまますれ違う。
 いつもならもう一言二言あってもおかしくないのだけど、…やっぱり気を使われてしまったのかもしれない。
 結果的には逆効果になってしまうこともあるけど、いつもディアッカは。


「…ねぇ」
「え。あ、何?」


 こつ、と足音がしたから、ディアッカは振り向いたんだと思う。私は前を向いたままだったから、彼の顔は見なかった。


「…トールは、強かった?」
「…」


 返事はすぐには返ってこなかった。
 小さな声だったからディアッカまでは届いてなかったのかもしれない。それならそれで良かった。ディアッカが聞き返してきたなら何でもないと言って、終わりに。
 だけどその声はしっかりと届いていて、数秒のタイムラグは躊躇っていただけの間。


「…強かったぜ。いい操縦してた。よくストライクを補佐してた」
「…そう」


 わかってた。ディアッカの答えが嘘だっていうことくらい。
 一生懸命練習して、1回は実戦も経験して。だけど結局は2回目に落とされた。
 トールは天才じゃない。コーディネーターでもない。付け焼刃で操縦した腕が良かったはずがない。

 全部わかってるのに、それでも。ディアッカの言葉を信じたい自分がいる。


「…ありがとう…」


 言葉と一緒に流れた涙は気付かれないまま落ちて、消えた。







弱気になっているミリィ。





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