いきなり何の説明もなく拉致された。


「ちょっとディアッカ! どこまで連れて行く気よ!?」
「いーからいーから。もーすぐ着くって」
「あのねえ! あたしは仕事中…っ!」
「お偉さんのつまんねー社交場なんざ撮っても仕方ないだろ」
「だからそれがあたしの仕事なんだって言ってるでしょ!?」


 ああもう、すれ違う人の視線が痛い。
 ザフト兵がオーブの報道記者のパスを下げたカメラマンを引っ張っている姿なんて格好の見世物だわ。「何をしたんだ、この女?」みたいな目で見てくる人もいる。失礼極まりないわ。犯罪者を連行するなら普通2人以上でかかるでしょ!
 カガリさん…アスハ代表のアプリリウス市表敬訪問に随行するオーブ側の記者としてやって来ている以上、任せられただけの仕事はしなくちゃいけないって言うのに、この馬鹿がっ! 会議後のレセプション開場からいきなり連れ出してくれやがったのよ!


「いい加減にしないと大声出すわよ!?」
「とっくに出してるだろーが。大丈夫大丈夫、この辺の警備はウチの隊の管轄だから。俺が何やっても大目に見てくれる」
「余計悪いわよ!」


 前庭の会場を抜けて迎賓館の中に、2階3階と素通りして最上階の4階。ここまで来ると警備兵の数も少なくなってる。何処に向かっているのか知らないけど、どんどん人が少なくなってるみたい…。


「…ちょっと。まさか空き部屋に連れ込む気なんじゃないでしょうね」


 もしそうなら殴る。絶対に殴る。
 あたしが睨んだのも予想通りみたいな顔して、ディアッカはいつもの冗談めかした口調で半分当たりって言った。


「あのねぇ…っ」
「けど半分ハズレ。何かしようってんじゃないから安心しろって」


 って言ってる間にゴールに着いたみたいで、ディアッカは1つの空き部屋の前で立ち止まった。カードキーを通してあたしを中に促す。


「…」
「何もしないって、ホント」


 信用ないな、俺。苦笑してそんなことを言う。
 悔しいけどあたしは中に入ってあげることにした。ディアッカがこういう顔をする時は本当に何もしないって、経験上知っているから。
 案内された部屋は客室の1つみたいだった。スイートルームと比べると手狭の――って言ってもあたしが泊まるようなシティホテルよりはよっぽど広いんだけど――、VIPのお付きの人が泊まるような部屋。奥のベランダから前庭が一望できるみたい。


「それで? ここが何なの?」
「もうちょっと待ってくれ。えーと、あと2分か」
「…?」


 壁掛けの時計――これ1つでもあたしの給料一か月分くらいしそう――は8時前を指している。一体何がって首を傾げてもディアッカは素知らぬ顔で答えてくれない。何があったっけって今日の予定表を頭の中で開いていたら、思い出すよりも早く、大空に大輪の花が咲いた。


「わ…!?」


 ドォン。連続する轟音、次々と花開いていく花火。
 あたしは堪らずにベランダに出た。真正面から花火が一望できる最高のポイントだわ。気がついたら何度も何度もシャッターを押していた。


「ちょっとは感激してくれるかと思ったら即仕事かよ。ったく、色気ねぇの」
「ディアッカ」


 ま、いいけどね。ひょいって肩をすくめる。
 どうやって見つけたのか知らないけど、ここは本当に最高のポイントだった。ついつい写真を撮りたいって思うくらいに。ベランダから見える空全体に沢山の種類の沢山の花火が咲き誇ってる。


「…」


 一通り写真を撮ったらカメラを下ろした。見下ろした会場には一際目立つはずのオーブ代表の姿が見えなかったけど、彼女も何処かに移動して見ているのかもしれない。ディアッカはあたしの後ろ1メートルで止まってこっちを見ている。あたしは――首だけ振り返って、それから


「…ありがと」
「いえいえ、どーいたしまして」


 言うだけ言ったらすぐに前を向いた。見なくても分かる、ディアッカは今もの凄くニヤけた顔をしてる。そんな顔にさせたのもそんな顔を見るのも悔しかったから、あたしはずっと振り向いてあげなかった。








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