まだ止むことを知らない
 突然降り出した雨をやり過ごすため、俺はとりあえず近くの喫茶店に転がり込んだ。
 地球に来るのはもう両手の数でも足りないし、それなりに長期滞在もしているけど、いつまで経ってもこの天気の変動には慣れない。プラントの完全に制御された天気とは全然違う。雨1つにしてもいつ降るか分らないし、降水量も止む時も予想程度しか出来ない。雨脚が弱まってきたなと思ってもそのまま止むとは限らないのが地球の雨だ。経験に基づく予想が出来ない上に傘の常備なんてしてない俺は、結局完全に止むまで待つか車を拾うしかどちらかを選ぶしかない。
 やっぱ車で来りゃよかったなと後悔しても後の祭りだ。とりあえずコーヒーを頼んで席に着く。あんまり長引くみたいならタクシーでも呼んだ方が良いだろうなと思ってガラス窓の向こうを見た。車が混んでいるかどうか確認したかっただけなんだけど、――見なければ良かったと、すぐに後悔することになる。

 少女が男と肩を並べて歩いていた。

 小柄と言うほどではないにしろ、長身とも言えない標準的な体格。外にハネた茶色の髪は肩で揃えられている。服装は…俺はあんまり見たことがないパンツルックで、カジュアルな上着に似合うオレンジ色の傘を差していた。特に美人とは言えなくても年相応の愛らしさと親しみやすさを感じさせるその表情は、――心から幸せそうに、微笑っていた。


「…」


 何かを言おうとした口は結局何も言えずにそのまま閉じた。
 何でこんな所にって思って、すぐに馬鹿かと自嘲する。ここは地球のオーブ――彼女の国だ。ここにいておかしいのはむしろ俺の方。出張を命じられて嫌々――それでも微かな偶然を期待して降下した。

 でも俺が期待していた偶然は勿論こんなものじゃなくて。

 俺は文字通り食い入るみたいに窓の外を見詰めた。ここからだと隣の男の顔はよく見えないけど、少なくともアークエンジェルに乗っていたあの娘の男友達じゃない。服装や物腰からだと、彼女よりも少なくとも10は年上みたいだ。辛うじて傘の下から覗く口元は楽しそうに笑っていて――彼女もまた、笑って――


「…っそぉっ…!」


 今すぐ飛び出して彼女を捉まえて、誰なんだそいつはと問い詰めてやりたい。
 でも俺はそんなことを聞いていい関係じゃないし、――何よりも、俺は。

 …俺には彼女をあんな風に微笑わせてやることは出来なかった。

 彼女の姿が雑踏に消えると、俺はテーブルに突っ伏した。
 いつの間にか運ばれてきていたコーヒーカップがカシャンと揺れる。


 雨が止むまで、――雨が止んでも。俺はいつまでもそこから動けないままでいた。









BACK


アトガキ


『ディアミリで「ねがい」の続きになるようなお話』
 を目指したブツですが。
 が。
 何をどう転んでも上記の希望をされた方の求めているのはこんな内容であるはずがない。
 ハーイ自覚済みでぇーす。
 人に贈りつけるものにこんなド暗い話書いてどうするんだ俺ー。でもこんな話も大好きさー<誰がお前の好みを聞いている
 時間軸で言えば確かに「ねがい」のすぐ後くらいなんで続きと言えば続きで間違ってはないですけど、何かと色々間違いまくってます。ご免なさい。
 この後ディアッカとミリアリアはいつ再会するのか、どんな関係になっていくのか。それを書かないとなぁと自分でも思いますハイ。
 …それ以前に再会出来るのかお前ら…<待て
 あ、ちなみに一緒に歩いていた男つーのは勿論父親とゆーオチです。勘違いを後で知って間抜けヅラを晒すディアッカが目に見えるようだ(笑)