カレンダー






 もうすぐ。
 もうすぐあの日がやってくる。



 我が子を愛しむ親のような優しさで、それでいて親の仇を射殺すような激しさで、キラはその一点を凝視していた。
 いつから見つめたままでいるのか、誰も測る者もいないから定かではない。しかしどれだけの時間であろうと、彼には関係ないのだ――彼にとって重要なのは、その一点のみ。


「…あれ、キラ?」


 いつの間にか入って来ていたカガリにも、キラは反応しない。それほどに集中しきっているのだ――その内容はともかく。


「オイ、キラってば!」


 無視されたことにムッとしたカガリが声を張り上げて初めて、キラは視線を動かした。文字通り目覚めたようにハッとして、あ、ああ、と曖昧な返事をする。


「あ、カガリか。どうしたの?」
「どうしたのって、もう少しで食事だから誘いに来たんだよ。
 それよりお前こそ何なんだよ、カレンダーなんかじっと見つめて」
「ああ…。
 …いや、そろそろ誕生日だなぁ、と思って」


 ほら、とキラが指差した先には、5月18日の日付けに赤ペンで花丸を付けられたカレンダー。
 今にも踊りだしそうに期待を膨らませるキラに、カガリははぁ、と気の抜けた表情を向ける。キラの誕生日イコールカガリの誕生日。そりゃ嬉しくないことはないけど、そこまで瞳を輝かせることだろうか。ケーキとプレゼントに群がる小さな子供じゃあるまいし。


「…何でそんなに嬉しそうなんだ?」


 素直に口にしたカガリに、キラはだって!と声を張り上げた。


「だってね、カガリ。誕生日が来れば、僕、アスランより年上になるんだよ!?」
「…はぁ?」
「そりゃ僕はアスランより頼りないかもしれないけどさ、それにしたっていつもいつもお兄さんぶられるのは納得いかないんだ! 僕より誕生日遅いくせに! だけどもう少しで僕のほうが年上になるんだ…! もう少しで…!」
「…」


 アスランの誕生日は10月だったっけ。ぺろり、とカレンダーをめくると、5月10日とは対照的に黒く小さく呪いがかかっていそうな字で、10月29日に『アスランの誕生日』とあった。


「もう少しなんだ…! 5月18日が来たらもう、アスランに兄貴面なんかさせてやるもんか…!」


 その日を夢見て目を輝かせるキラだが、きっと10月29日が来たら凄まじく沈むことになるのだろう。


 勝手にやってろとばかりに、カガリは大きくため息をついた。








誕生日が早く来ても
アスランの世話焼き癖は
全っ然変わらないでしょうが。




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