どうしてこの人は私に呼び捨てにされるのを許してるんだろう。







道端の小花







「…あ、レイ!」
「…」
「ねぇ、お姉ちゃん見なかった? 一緒にご飯食べようって言ってたのに、いつの間にか何処か行っちゃって…」
「整備士に呼ばれていた。ドッグに行ったんじゃないのか?」
「そっかぁ…」


 お仕事なら邪魔できないし…関係者じゃない私があんまりドッグに行くのも良くないし…。
 ご飯、1人で食べた方がいいかなぁ。いつ終わるか分からないよね。


「それだけか?」
「あっ、うん。ご免ね、呼び止めちゃって」
「構わない。…今からドッグに行く所だ、ルナに会ったら伝えておく」
「え? いいよ、そんなの。お姉ちゃんお仕事してるんでしょ? 邪魔しちゃ…」
「お前が待っていると言うだけだ、本当に邪魔ならルナも無理だと言うだろう」
「そうだけど…」


 …いいのかなぁ。よりによって、レイにお使い頼んじゃって。
 だって、レイって軍のトップガンだよ? お姉ちゃんやシンもそうだけど、レイはMS戦での現場指揮官だもん。お姉ちゃんより凄い人だよ。
 お姉ちゃんがレイに、っていうのならいいけど、私はただのブリッジ要員だよ。頑張ってミネルバに配属されたけど、ブリッジじゃ私が一番若いし、一番重要じゃない役割だし…。とてもレイに頼みごと出来るような身分じゃないよね…?

 …そもそも私がレイを呼び捨てにしたり、こんな風に話しかけたりしてるのも、お姉ちゃんがそんな風にレイに接してるのを見て真似しちゃったからだよね。
 もしかして私、レイに物凄く悪いことしてる?


「あ、あの…! レイ!」
「…何だ? まだ何かあるのか?」
「何かって言うか、その…」


 …どうしよう…!
 謝った方がいいよね、でもこれまでずっとそう呼んできちゃったのに、いきなりご免なんて言ってもわけ分からないよ! で、でも、やっぱり私なんかがレイにお使い頼むのなんていけないし…!


「あ、あのね…」
「何だ?」
「…私、レイって呼んでいいの?」
「…は?」


 ああっ、レイ、物凄く変な顔してる!
 そ、そうだよね。いきなりそんなこと言われても困るよね。そうじゃなくて、お姉ちゃんに伝言なんかいいよ、って言わなきゃいけないんだってば…!


「ご、ご免っ! そうじゃなくて…」
「…構わない。何を気にしているのかは知らないが、今まで通り呼べばいいだろう」
「…」


 …えっと。だから私は、その。
 …いいの、かな?


「…うん」


 ものすごーく、変な顔してたんだと思う、私。
 だってレイが笑ったんだもん。ほんの少しだけだけど、にこって。面白そうに笑ってたんだもん。
 すぐに戻っちゃったのは勿体無かったけど、すごい貴重な体験したんじゃないのかな、私。


「…他に用はないのか?」
「…うん、ない。…ありがとう…」
「構わない」


 結局その日はお姉ちゃんと一緒にご飯は食べれなかったけど、ずっとすごく幸せな気分で過ごせたよ。
 だって、あのレイが笑ってくれたんだもん。







小さな幸せ。



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