見たいものを見よう。それが許されるうちに。







   One Day, One Dream







 雪が見たい、と言ったのはカガリで、雪をまともに見たことがないと言ったのはキラだった。
 それならば雪を見に行こう、と意見が合致したのもやはりその双子だった。そうなるとまずオーブ国内では降り積もった雪など望めるはずがなく、国外への旅行となる。そんな事態になったとき、まさかこの双子だけで行かせられるわけがない。オーブの姫の護衛も兼ねて、必然的にアスランが同行することが決まった。
「すごいなー!!」
 車のドアを開けてのカガリの第一声はそれだった。
 止まるなり転げる外に飛び出していく金髪の少女に、ドライバーのアスランと助手席のキラが苦笑し合う。
「カガリー、まず荷物入れちゃおうよ。もう暗いし、遊ぶのは明日」
「えぇー? まだ見えるから平気だろ」
 踝までのブーツの踵の跡を雪の上に残しつつも、助手席の窓から呼びかけるキラのほうにカガリは戻って行く。はしゃぎたい彼女の気持ちはキラにも理解出来るが、何事も時と場合によるのだ。
「でもすぐもっと暗くなるよ」
「明日ゆっくり遊べばいいだろう」
「…わかった」
 双子の片割れとその親友、それぞれに宥められカガリは不承不承頷いた。おとなしく道中の自分の居場所だった後部座席に戻る。滞在中の宿となる、アスハの家の姻戚が経営している山荘はすぐそこだ。
 薄い闇に包まれようとする山道は舗装されているが積雪によっては通行止めになるという。温暖なオーブで育ったカガリにはそんな雪の風景が物珍しくて仕方ない。小さい頃一度父親に連れてきてもらった記憶はあるが、その中の雪はこんなに白く見えなかった気がする。
 青い薄闇に白い雪が染まり、聳える針葉樹林が黒い影になっていく。太陽が落ちたのはほんの少し前だというのに、あっという間に訪れる夜はオーブの海に落ちていく夜とはまるで違った。
 硝子窓に手を当てて外を覗き込んでいたカガリの視界に、ふとはらりと落ちる雪が目に入った。
「あ、雪!」
「…あぁ、また降ってきたんだね」
「このあたりではこの時期ほぼ毎日降るらしいからな」
 今期の積雪量がのべ1メートルを越えようとするこの地域では、今の時期ではまだまだ本格的な冬ではないらしい。オーブ育ちのカガリはもちろん、宇宙育ちのアスランやキラにとってもこの雪景色には実感がない上にこの状態で未だ冬ではないと言い切る土地柄に環境の差を思い知る。
「すごいなー」
 ただひたすらに自然の恵みに感嘆の声を上げる金の髪の少女。
 前を向いているせいで、少年たちにその顔は見えなかったがあの大きな瞳を輝かせているのを想像するのは簡単だった。込み上げた微笑ましさに、彼らは二人同時に目を合わせて笑う。
「明日になったら好きなだけ見られるさ」
「そうそう。そのために来たんだから」
 雪は逃げないよ、と大人ぶって少女をたしなめる二人も、自分たちには貴重な体験が出来ることに浮かれていることを認めないわけにはいかなかった。











 明け方過ぎに、聞きなれない音でカガリは目を覚ました。
 意識が夢から現へと戻ってきた瞬間に、顔の皮膚に慣れない温度が触れてくる。冷たく冴え渡る冬の空気。毛布からはみ出た皮膚に直接突き刺さるようなそれから逃れるように、カガリは顔を毛布と枕の隙間にねじり込む。まだ起きる時間ではない。
 再びうとうととまどろみ始めたとき、また同じ音がした。大きな荷物が落ちるような鈍い音。
 毛布の海から顔を持ち上げたカガリの目に、その音で遠ざかりかけた意識が戻って来る。ベッドサイドの時計を見れば午前六時。隣の部屋のねぼすけ二人組は間違いなくまだ眠っているだろう。
 少しの間思案したあと、カガリは暖かいベッドへの思慕を振り切るように毛布を跳ね上げた。











 その日の朝アスランが最も後悔したのは、寝る前に暖房の時間予約設定を怠ったことだった。
 寒くて目が覚めるなど、これまでの人生で記憶にある限り全くない。オーブでは考えられないほど分厚い毛布を幾枚も重ねているというのに、つま先から這い上がる寒さと首筋のうすら寒さが合わさって何とも言えないほど寒い。
「…キラ…」
 毛布から顔を半分だけ出して隣のベッドを見ると、同じように身体の位置を変えている親友の茶の髪が見えた。親友の名を呼んだときに出した自分の声が白く靄がかるのを見つけ、アスランは愕然とした。部屋の中だというのに。
「…なに…」
 どうやらキラも、この地域の朝を侮っていたらしい。眠そうではあるが、目を覚ましたばかりではありえない早さで返事が戻ってきた。
「暖房…つけてくれ」
「…えぇ…? やだよ、アスランつけてよ」
「いやだ」
 このささやかなぬくもりから一瞬でも出たくなかった。たとえその数十秒の犠牲によって、その後の平穏がもたらされるとわかっていても、どうせその犠牲になるなら自分ではないほうがいい。そんなアスランの思惑はキラも共通しているようだった。
「キーラー」
「アスランー」
「…………」
 僕やだよ、と言わんばかりに毛布の中に引っ込んだ茶の髪の残像を睨みつけたところでアスランの諦め心が首をもたげた。どうせ自分の役回りはいつもこうなのだ。今キラの毛布を引き剥がすのと、ベッドを出て暖房のスイッチを入れるのとどちらが建設的かと言われれば後者だ。
 せめてもう一枚何かを着て寝るべきだったと、今夜に向けての反省をしたところでアスランは仕方なくベッドを出た。出来るだけ無駄のない動きで暖房装置に近づき、指一本でまずはスイッチを入れ、設定温度を上げたところで温風が部屋の隅から流れてきた。
「…ったくキラ! いつもいつもこういうのを俺にやらせるなよ」
「えー…うん、ごめん…」
 もぞもぞと羽毛布団の下で動いている親友を一瞥し、アスランは息を吐く。見た目は木製のアナログ風味な山荘だったが、設備はまだ新しいのか室内はもう暖まり掛けている。そのせいで先程のように息が白く濁らなかった。
 起きてしまったついでに時計を見ると、予定起床時刻よりは一時間弱まだ間がある。再び寝るべきか起きてしまうべきか考えるついでに、アスランは光が漏れる地の厚いカーテンに近づいた。
 音を立ててカーテンを引くと、曇天の空の下真っ白な雪に覆われた山の地肌が見える。斜面に沿って建てられた建物のために、眼下に広がる世界は天を仰ぐ針葉樹林と斜めに積もった雪だけだ。太陽は出ていないが小雪がちらつき、積もった雪が少ない光を反射して思ったよりも明るい。
 カーテンを開けたせいで、冷気がまた足元に落ちてくる。やはりもう一度寝ようと開けたはずのその布地を再び手に掴んだとき、アスランのコーディネイターとしての類稀な視力が白い雪の上にある別の光を捉えた。
 白銀の上に、ちらちら揺れる淡い黄金色の何か。
「……カガリ!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げたとき、寝ていたはずのキラが反応を寄越した。
「え? カガリ?」
「…あいつ、何やってるんだ?」
「へ?」
 何事かわかっていないキラを放っておいて、アスランは足早に自分の荷物のほうに戻ると鞄の中から服を取り出してはベッドに投げる。
「キラ、お前も早く着替えろ」
「あ、う、うん」
 どことなく事態を理解しつつあるキラは、アスランのその発言に異論を唱えたりはしなかった。
 手早く二人で身支度を整えながら、どちらからともなくため息をつく。
「…ねえ、なんでじっとしててくれないんだと思う?」
「そんなの俺が聞きたい」
 軍隊上がりの習性ゆえか、十分足らずの間に身支度を整えた二人は防寒具の類をすべて引っ掴んで外に走った。











 積もったばかりの雪の上に、初めて足跡をつける行為がこんなに面白いものだとこれまでカガリは知らなかった。誰も知らない領域を侵す快感とちいさな罪悪感。しかし踏み躙ることに醜悪さを覚えるよりも、白い雪はまるで包み込むようにカガリの重みを受け止めてくれる。
 空は濃い灰色をしているが、夜のように暗くはない。どれだけ厚い雲でも完全に太陽の光を覆うことは不可能なのだ。あの光を隠せるのは夜のみ。そうやって黎明の時から地球は生きてきた。
「しかし…冷たいな」
 先程から山荘のすぐ下の斜面にある小さな広場で雪に触れて遊んでいたカガリは赤くなった指先にそっと息を吹きかけた。
 長年の憧れであった『雪だるま』というものはキラと一緒に作る約束していたので一人で作るのはやめ、その代わりアスランが教えてくれた『雪うさぎ』というものを作ってみた。楕円形に雪を盛り、手近な雪の隙間に見えた熊笹を耳に見立てて差してみるとわりとそれはうさぎらしく見えた。
 初めてまともにするその雪遊びに調子に乗っていくつもうさぎを作っては雪の斜面に並べていくうちに、最初は我慢出来るほどだった足の先や指先がもう痛いほどになってきた。着込んではきたが、手袋を部屋に忘れてきたことを何より後悔した。
 空を見上げると淡い雪が絶え間なく降り注いでくる。一番最初に作った雪うさぎの耳の上にも、その雪はうっすらと積もりかけている。
 鈍い色をした空から落ちてくる六角の花を見ていると、いつの間にか吸い込まれていきそうな気がする。自分以外のひとの気配が何もない場所。目を伏せると、ただ雪の降る音が聞こえる。静かな雪の朝。静謐という言葉を思い出す。
 胸一杯に空気を吸い込むと肺の奥が小さく痛んだ。
「あっ、いた! アスランこっちこっち!!」
 そのとき、離れた斜面の上のほうからキラの大声が聞こえた。
 カガリがそちらのほうに顔を向けてみたときには、すでに茶と群青それぞれの髪が揺れながらカガリのほうへ雪を踏みつつ駆けてくる。それでも足を取られて転ばないのは、流石はコーディネイターのバランス感覚なのだろう。
「キラ、アスラン。起きたのか?」
「起きたのか、じゃないだろ…」
「もーまた一人でひょこひょこ出てっちゃうんだからさー」
 デザインは似たりよったりだが、カガリのより角ばったデザインとサイズのブーツの足跡を揃いで残しながら近づいてくる二人に、カガリは「ごめんごめん」と笑いながら謝った。
「あーあーもう、こんなに頭に雪のっけて。冷たくないの?」
「ほら、これもつけてろ」
「あ、僕のも」
 髪や肩に知らずに積もっていた雪を払われ、あっという間に二人分のマフラーでぐるぐる巻きにされ、その過保護振りにカガリは知らず眉根を寄せた。心配されるのを嬉しくないとは言わないが、稀にこの二人のそれは行き過ぎがあるのではないだろうか。
「…あのな、二人とも。五や六の子どもじゃないんだし、そんなことまでしなくていい」
「だったらせめて、外に出るときに一言あっても然るべきだ」
 適当に巻かれたキラのマフラーを見目良く整えようと指を使っているアスランにきっぱりと言われ、カガリは口ごもる。キラのほうを見たが彼もアスランに同意を示してうなずいていた。
「そうそう。真っ赤な指しちゃってさ。はい手袋」
「…それはキラのだろ」
 目敏く指先を見つけられ、気まずくなったのかコートのポケットに手を突っ込んだカガリをキラが苦笑する。
「…これを作ってたのか?」
 カガリの足元に並んだ雪の創作物に目を遣ったアスランに、カガリは得たりとうなずく。
「ああ。なかなか面白いな、こういうのも」
「朝っぱらから起き出してやることか?」
「いいだろ。どうせお前らはまだ寝てると思ったんだ」
 それはそうだが、と小さく言ったアスランは抜け駆けをした彼女をこれ以上強くは叱れない。
 カガリはむき出しの金の髪を一振りして、ただ空を仰ぐ。
「…すごいな」
 その声は、ただ浮かれるだけの昨日とは違う響きを持っていた。これまで自分たちが知らなかった世界、人為的に齎されたものではない自然のすがた。真白の雪が何もかも覆い隠そうとしてくる中、自分たちがいる場所だけが人工のものだと知る。
 それはオーブの嵐の海が教えるのと同じ、自然への憧憬と脅威だ。
「…うん」
「…そうだな」
 光のイメージを色として生まれながらに纏う少女の言葉に、同じように天を仰いだ少年たちが答えた。
 美しいと、ただ素直にそう思う。
 雪の色と木々の色と、かすかに見える枯れた植物の色。自分たちがいなければモノクロにも思えてしまうこの世界が、唯々綺麗だと思える。白い雪が少ない光を反射し拡大させる一方で、音という音がすべて飲み込まれてしまったかのように静かだ。
 いくつもの美しいものを見るたびに、心がほんの少し癒される気がする。多くの人々をその手に掛けるしかなかった自分たちの戦争が、この世界を守ったのだと。人には慰められずとも、世界が自分たちを肯定してくれるような気がした。それが人間という地球の一種族の傲慢に過ぎなくとも。
「…宇宙で育ったお前たちにはあんまり知らないだろうけどさ」
 空を仰ぎ目を細め、この星でその生の大半を過ごした少女は彼らに言う。その髪に飾りのように煌く六花。
「こういうところは、地球の色んなところにあるんだ」
 星が持つ美しさ。人間が作り上げたのではなく、この星が生み出す偶然の産物。人の意がそれに近づくことを、自分たちは奇跡と呼ぶ。
 カガリは冷たくなったてのひらを上に向けた。白い破片がその上に降り立ち、すぐに解ける。
 その儚さに彼女は淡く笑んだ。解けてもしずくが残る手のひらに。
「…そういうのをこれからもっと見ていけたらいいと思うんだ」
 人によって傷ついた心が、もっと大きな存在によって癒されることがある。人知の及ばない何かが少しでもキラやアスランのこれからの支えになってくれればいいと、カガリは願う。あの偉大なる海にこれまで幾度も救われた思いがした自分のように。
 たたかいの傷跡が、どうか彼らを苛み続けないようにと。
 黙っている二人に向かい、カガリは強く笑った。
「今は、そういうことが出来るんだからさ!」
 もう戦いは終わったのだから。彼らが命の奪い合いはすることは、きっともうないと願いたいから。
 見たいものを見て、したいことをしよう。いつかそれが終わる日が来ても、きっと心の支えになるはずだから。
「…明るいな、カガリは」
 先に笑ったのはキラではなくアスランだった。緑の目を細め、金の髪の少女に向ける。
「ほんとにね」
 続いてキラも笑う。
 この雪がすべて解ける頃、彼女に待ち受ける運命は彼らも知っていた。アスハ家の当主の座を継ぎ、代表首長となる。かねてから亡父の遺志を継ぐ者として前途を嘱望されていたカガリだが、本来ならばまだまだ叔父たちの庇護のもと勉学に励む年齢だ。その十七になったばかりの少女すら政治の道具に使わねばならないほど、オーブ国内は切迫していた。
 目に見えた復興のかたちを国民たちに見せつけなければならない。彼女に求められたのはその政治能力よりも獅子と謳われた故人の娘であることとその麗しい見目のみだ。その内面を必要とされない世界で、彼女がこれから味わうであろう苦難の道は推し量り切れない。
 新たな指導者に期待を寄せていた国民たちに、彼女の足りない部分を受け入れてもらえる余裕はあるだろうか。またその期待に答えられるだけのカガリの力量はあるだろうか。期待の分だけ落胆は大きく、裏切られたと国民に思われたとき傷つくのはカガリだけだ。
 未だ力及ばないとわかっていて尚、受け入れようと決意したカガリの気持ちは潔く健気だったが、気持ちだけではどうにもならないこともまた事実だ。だからといって獅子の娘の代わりは誰にも出来ないのだ。
 その背負うものの代償に、彼女が今後自分の意思で国外に出ることはまずないだろう。政治的意味合いのない地域に足を踏み入れることさえアスハを担う者の繁忙な生活では許されない。個人的な旅行などそうそう見込めるはずがない。
 オーブに雪は降らない。カガリにとっては、最後の雪になるかもしれない。だからこそ三人だけで許されたこの旅行だった。
 戦いは終わった。けれど、だからこそ、生きていくために必要なことがある。これからのカガリの人生がそれを担うことになるのだ。
 しばし三人で雪を見上げた後、頃合を見計らってアスランが声を出す。
「…ところで、そろそろ中に戻るぞ」
「ごめんカガリ、僕寒い」
「えぇ? まだ」
「「ダメ」」
 声を揃え、アスランとキラは震える自分の肩をこらえてカガリの両腕をそれぞれ取る。元気なのは結構なことだが、この分では早々に彼女が風邪を引くことになり、体調不良で帰国させたときの自分たちの処遇を考えるととてもこのまま放置は出来ない。
「はいはい戻ってご飯にしよ」
「遊ぶのはそれからだ」
 腕を絡め取られて半ば連行されるカガリは、優しげな顔をして力だけは一人前の少年二人を交互に見上げる。
「お前らなー」
「子どもじゃないんだろ?」
 アスランに呆れたように言われ、カガリはむっとして眉を顰めたがさっきそう言ったのは自分だ。歩きにくさを考慮して普段よりさらに歩幅を縮めてくれている両脇の二人にためいきをつく。
「いつでも見れるよ」
 そんなキラの一言に、カガリは顔を跳ね上げた。キラは微笑んでいたが、アスランはいつも通りの横顔だった。
 ざくざくと鳴る足元のリズムに合わせるように、三人は呼吸を続ける。アスランの前髪が冷気を含んで揺れる。
「いつでも見るために来たんだからな」
 それが束の間の冬であっても、冷たさや寒さをすべてマイナスに捉えないカガリのことだ、きっとその中でも生きていける。二人はそう信じていた。
 この子は、凍てつく冷たさの中でも、手を真っ赤にしても、喜ばしいもののために動ける子だから。
「…でも今はともかくあったかいストーブがいいなぁ、僕」
「俺もだ」
 あははと笑ったキラに、わりと真顔のアスランが返す。彼らの片腕ずつを絡めているカガリは、その様子に笑いながら腕の力を強めて二人の間で彼らの腕に頬を寄せる。
「私はこうしてるとあったかくていいなー」
「あ、ずるい! 自分ばっかり」
「まったくだよ。…ってキラ! 二人揃って俺に寄りかかるな!」
 歩きなれない雪の中を歩き、慣れない格好で笑って、それでも隣り合って。
 何の不安もなく傍らにいられること、今のことだけに笑い合えること、そんなささやかなことが一番しあわせなのだと自分たちは誰よりも強く知っている。
「そっか、こうすれば引っ張ってもらえるのか」
「力持ちアスラン頑張ってー」
「カガリはともかくキラは自分で歩け!」
 笑って怒ってそれでも笑って。寒さすら笑顔の源に変える。
 これから本格的な冬が自分たちを襲うことをうっすらと予感していても、今はただこの冬すらも楽しんでいたいと彼らは望む。
 見たいものを見て、行きたいところに行こう。本当に希求するものは、もっと遠くにあるとしても。
 これから先、大人にならざるを得ない自分たちに残された時間。束の間の争いは消えても、この世界を取り巻く人間の事情は三人がゆっくりと大人になるだけの余裕を残してはくれない。見たいものを見る。それだけのことが、きっとこの先は我侭じみたものに変わっていってしまうのだと、誰もが理解していた。
 いつまでも子どもではいられない。状況はそれを与えてくれない。ずっとこうしていたくても。
 それでも世界は、今この場所で三人で笑うぐらいの時間は許してくれるはずだから。
「やっぱり三人だと楽しいな!」
 太陽の色を背負って少女が笑う。
 同じ笑顔で同意を返した少年たちも、笑っていた。
 一年後の自分たちが何処にいるかも知らず、雪の中で子どものように笑って、一緒にいた。

 それはまだ彼らが同じ大地にいた頃の話。









 無印とデスティニーとの間ぐらいで。新たな決断までの猶予期間。
 構成とか何気なく甘さが垣間見えるのですが、新春のフリー小説ということで、よろしければお好きにお持ち帰り下さい。なんか全然新年とかそういう感じではないのですが。
 サイトにアップもオッケーですが、その際はご一報下さると嬉しいです。
 背景の写真はこちらでお借りしました。



 つー訳で頂きました。
 遠屋の遠子さんの新年フリー小説です。
 元々以前から惚れ込んで尊敬していた書き手さんだったので、遠子様が種、しかもザラパパネタ(!)を書かれた時は狂喜乱舞でしたよ。
 この人の書かれるキラ、アスラン、カガリの3人の関係は私の理想にかなり近い…と言うか、モロジャストミートしています。





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