小話帳

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 基本的に書きなぐったブツの収納場所。オチのない話も有り。
 Fate(原作が18禁)とエロっちぃ話はネタバレ機能で隠してます。

  BITTER SWEET CHOCOLATE(一歩通行と打ち止め)
2012/02/11 ◆ 禁書目録
 その日一方通行は朝から不機嫌だった。理由は明白である。

 打ち止めは朝どころか昨晩からそわそわと落ち着きがなく、
 番外個体はそんな打ち止めを見てにやにやと意地の悪い笑みを浮かべており、
 黄泉川は出勤前に「頑張りな、打ち止め」とエールを送り、
 芳川はそんな3人を微笑ましく楽しみつつ居残りたがる番外個体を無理に連れ出したからだ。

 居間のソファで一方通行がごろ寝をして、打ち止めはその傍らに腰掛けている。テレビは打ち止めが先日録画していた動物のドキュメンタリー番組が流れている。打ち止めが見始めたものだが、彼女の視点は全くテレビに定まっていない。テレビを見てなきゃと思いつつも別のことが気になっているのが明白で右に左にと頭が揺れている。
 そんなゆらゆら揺れる後頭部を見下ろして、一方通行は心中で舌打ちを繰り返す。

(…ンの馬鹿が。持ってくるならさっさと持って来いっつーの)

 打ち止めがこんなにも落ち着かない理由はとっくに分かっている。月表示のカレンダーに大きく書かれたピンクのハート。その日付が示すのは今日、2月14日だ。
 バレンタイン商戦などと言う物を世間一般に普及させた菓子屋の店長を恨めしく思う。一方通行は普段缶コーヒーを好んで飲んでいるが、大概がブラックだ。甘いものは言うほど口にしない。それでも食べれば蕁麻疹が出ると言うほどの苦手ではないため、食べない訳にはいかないだろう。
 打ち止めは顔をきらっきらと輝かせて差し出してくるだろう。それでいて「食べてくれるかな?」と不安も抱えて胸をどきどきさせているだろう。食べて欲しいから渡したい、渡したいけど食べてくれなかったらどうしよう。その期待と不安が、今のそわそわと落ち着かない打ち止めの態度だ。

(誰も甘いもンを食べねェなんざ一言も言ってねェだろうが。ったく、このバカガキ…)

 一方通行は今まで打ち止めに甘いものが嫌いだなどと言った覚えはない。打ち止めが差し出しさえすれば全部食べてやろうと、その程度には思える。だのに打ち止めは中々渡そうとしてこない。ドキュメンタリー番組はエンドロールを流し、打ち止めはまた別のドキュメンタリー番組を流し始めた。

「…ちっ」

 新しく流れ始めた番組も、果たしてどれだけ打ち止めの記憶に残るか怪しいものだ。そわそわとし続けるだけで動こうとしない打ち止めに舌打ち1つ、一方通行は腰を上げた。彼がいつも缶コーヒーの買い置きを置いている場所へ歩を進め、1番手元の一本を取って戻ってくる。

「…」
「…?」

 打ち止めはその動作を無言で見ていた。その様子に一方通行が眉をひそめる。いつもなら「ミサカも何か飲みたい!ってミサカはミサカは主張してみたり!」などと言い連ねてくるタイミングだ。

(何ンだ? …何かあンのか?)

 不審に思いつつ、缶のプルタブを開ける。プシッと一音、打ち止めの様子に気を取られていた彼は、その音と手応えがいつもと若干違っていたことに気が付かなかった。
 じっと見上げてくる打ち止めに視線を固定したまま缶を口元に運び、その中身を口の中に流し込み。
 一方通行は盛大に噴きだした。

「〜!? がっ!? っ、はっ、がはっ」
「やったね、成功成功! ってミサカはミサカは勝利のガッツポーズを掲げてみたり!」
「…っ、オマエ…!?」

 一方通行が買い込んだはずの缶コーヒー、ブラック無糖の味の筈だったそれは、何故か中身がほろ苦い甘みのチョコレートドリンクに代わっていた。いや、何故かと問うまでもない。間違いなく犯人は一方通行の目の前で高らかに勝利を宣言した人物だ。わざわざ同じ缶を購入し、中身をチョコレートドリンクに入れ替え、プルタブを開封前と同じ状況に復元したのだ。罠を仕掛けたのはおそらく今朝の内だろう。早く仕込んでも遅く仕込んでも駄目、今日飲んでもらわないと意味が無いのだから。

「こンの、クソガキ…! 何考えてやがる!?」
「ハッピーバレンタイーン!ってミサカはミサカは可愛く小首を傾げてみたりっていたたたたた、いたい!? 幼児虐待反対!ってミサカはミサカは断固抵抗してみる!」
「っせェ! 飲ませたいなら普通に渡せ! おかしな罠貼ってンじゃねェよこのバカガキが!」

 打ち止めの頭はとても小さい。大きいとは言えない一方通行の手で抱え込んでギリギリと締め付けられる程度には。
 とは言えさほど本気で力を込めていたわけでもなく、打ち止めは素早く拘束から逃げ出した。あー痛かった、などと嘆いているが、その表情はとても晴れやかだ。

「…普通に渡してたら、ちゃんと全部飲んでくれた? ってミサカはミサカは質問してみる」
「…」

 しまった、と一方通行は顔をしかめ、倒れ込むようにソファに座りこんだ。ねーねー、と打ち止めが追撃するが一方通行は答えない。答えない代わりに、缶に残っていたチョコレートドリンクを一気に飲み干した。

「あ、全部飲んでくれたってミサカはミサカは満足気に微笑んでみたり」
「うるせェ黙れ」

 打ち止めも元の定位置、一方通行の足元に座り込む。テレビはまだ2つ目のドキュメンタリーを流しており、打ち止めの顔はテレビの方を向いていたが、先ほどとは全く別の意味で、打ち止めの意識はやはり向けられなかった。
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  とりっくおあとりーと!(一方通行と打ち止め)
2010/11/01 ◆ 禁書目録
 記録的猛暑だった夏も終わり、秋も深まってきたある午後。
 黒く三角に尖がった帽子をかぶった少女は小さな体で精一杯に胸を張って、声高に宣言した。

「TRICK OR TREAT! ってミサカはミサカは脅かしてみたり!」
「…あァ?」

 宣言された少年は気だるげに少女に視線をやったが、その宣言内容と恰好の一致に納得すると、あっさりと先ほどまでの作業の続き――新商品の缶コーヒーのプルを開けようとしていた――に戻った。無糖のブラックなのだがそもそもの味が薄い。これァハズレだな、と一方通行は断じながら一気飲みし、あっさりとゴミ箱に投げ捨てた。
 これらの一連の動作の間、最初の一瞥以外に少女に目を向けることはなかった。

「…TRICK OR TREAT! ってミサカはミサカは完全無視にもめげずに再度挑戦してみる!」
「…」

 一方通行としては無視したまま終わらせたかったのだが、これ以上無視していては演算能力の強制停止という力技に出られないとも限らない。面倒臭ェ、と内心で溜息1つ、少女の方へと向き合った。
 最初に見た時と変わらず、少女は胸を張って指を一方通行へと突き出していた。若干涙目っぽく見えるのは気のせいではないだろうが一方通行は気にしない。黄泉川が最近買い与えたらしい秋物のワンピースと黒い三角の帽子。夏の間ずっと着倒していたキャミソールと同色の水色の水玉模様と魔女の帽子の組み合わせは怖ろしいほど似合っていなかった。
 お化けに扮装した子供が決まり文句で脅して菓子を強奪していく馬鹿騒ぎと一方通行が認識しているイベントに即した格好というのは分かるのだが、そもそも打ち止めは根本的な所で間違っていた。

「おいバカガキ。オマエはカレンダーも読めねェのか?」
「読めるよ?ってミサカはミサカは質問の意図を分かりかねて首を傾げてみたり。ミサカはカレンダーも読めない程お子様じゃないもんってミサカはミサカは当たり前のように反論してみる」
「なら今日が何日かも分かるよなァ?」
「勿論!ってミサカはミサカは大きく頷いてみる。11月1日だよってミサカはミサカは素直に答えてみたり」
「ハロウィンなんざ昨日で終わってンだろォが。何バカ言ってンだオマエ」
「1日くらい遅れても子供のすることなんだから可愛げがあっていいんだよ?ってミサカはミサカは自分の外見を最大に活用したぶりっ子ポーズを取ってみたり」

 小首を傾げて見上げてくる仕草は確かに子供らしい可愛らしさに溢れているが、生憎と一方通行はこの手のポーズに絆されるような素直さなど持ち合わせていなかった。
 びしり、と毎度のチョップが一発、打ち止めの額に直撃する。

「あうっ!? ってミサカはミサカは突然の暴力になすすべもなくしゃがみ込んでみたり!」
「バカな遊びに付きあわせンじゃねェ、バカガキ! 大体俺が菓子なんざ持ってるわけねェだろうが!」
「あなたがお菓子を持ってないのは最初から計算済みだもんってミサカはミサカは反論してみたり! それよりせっかく頑張って作った帽子が凹んじゃったってミサカはミサカは損害賠償を要求してみる!」
「あァ? 菓子持ってねェって分かってンなら要求する意味がねェだろうが」
「あるもんってミサカはミサカはにんまりほくそ笑んでみる。お菓子が無いならイタズラするぞ!ってミサカはミサカは親切に日本語訳してあげてみたり!」

 一方通行のチョップで凹んだ帽子が転げ落ちるのも構わず、打ち止めは一方通行に突撃した。抱きつくという言うよりもそのまま押し倒すのを目的としたボディアタックだったが、どうせこんなことだろォと思ってたがな、と攻撃を予測していた一方通行にあっさりと躱され、無残にも床に突撃する結果となる。
 幸いにもクッションが置いてあったので床に直接激突する結果にはならなかったが、クッションで守られたのは顔と胸のあたりまでだ。足などはまともに自分の体重分の衝撃を受け止めることになってしまった。ううー、とうめき声を上げる打ち止めを、自業自得だと一方通行は冷たく断じた。

「ンなバカ騒ぎは黄泉川にでも付き合ってもらえ、俺を巻き込むンじゃねェよバカ」
「…あなたがバカって言うのはもう口癖みたいなものだけど、ってミサカはミサカはため息交じりに理解を示してみたり。でもミサカだって何回も何回も連呼されたら傷つくんだもんってミサカはミサカは怒りを露わにしてみる!」
「…っ!?」

 がくん、と一方通行の体が急によろめいた。バランス感覚が失われ、体を支える杖を持つ腕も力を無くし、崩れ落ちるように床に倒れ込む。立ち上がろうにもまともに体が動かない。動け、と体に命令しても、乱雑に絡まりあった脳が命令信号を四肢まで伝えられない。

「…っ、…!」
「宣言通りイタズラするんだからねってミサカはミサカはにじり寄ってみたり」

 打ち止めによる演算能力の強制停止。思いつく限りの罵倒を叩き付けてやりたくとも、一方通行はまともに顔を上げることもできなかった。
 顔に影が出来たことで打ち止めがすぐ傍に立ったのを知る。打ち止めはよいしょ、と掛け声1つ、一方通行の体を仰向けにさせると、その時点で強制停止を終了させた。感覚が失われたままでは意味が無くなってしまうから。

「…ンのクソガ…」

 ちょん、と頬に柔らかな感触。言葉に詰まった一方通行の目に飛び込んで来たのは、恥らいながらも得意げな打ち止めの笑顔。再びチョップを食らわない為か、打ち止めは目的と達成するや否や、即座に一方通行から離れていった。

「イタズラ成功!ってミサカはミサカはガッツポーズで勝利宣言してみたり!」
「…っ!」

 感覚が戻った体で追いかけようと一方通行が立ち上がった時にはすでに打ち止めはドアの向こうへと逃げ切っていた。
 一方通行はやり場のない苛立ちに舌打ちを1つ。完全な八つ当たりでクッションを蹴り飛ばしたが、とてもその程度で収まるものではなく。どうしようもなく苛立たせる原因に責任を取らせるべく、一方通行はドアノブに手を掛けたのだった。



   ==============

 ほのぼのを目指して頑張ってみました。
 一方通行→打ち止めは恋愛と言うよりはまだ家族な感じ。打ち止め→一方通行は子供の微笑ましい初恋っぽく。

 …書き始めた時点ではオチまで考えてなくて、「そうだイタズラなんだからちゅーさせちゃえばいいじゃん!」と安易に決めたのは秘密なんだぜ。
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  サテライト(一方通行と打ち止め)
2010/06/22 ◆ 禁書目録
「具合はどうだ?」
「変わりゃしねェよ」
「…そっか」

 会話はそれだけで終了し、少年はその部屋から退出していった。すまない、と侘びるような気配が残されたが、一方通行はそれに何も返さない。何も返しようが無い。
 一方通行の傍らで眠る少女の容態は一見安定している。まるではしゃぎ疲れた子供がただ眠っているだけのように。一時的とは言え脂汗を常時流していた状態からここまで安定させたのは紛れも無く少年の右手の力だ。一方通行は感謝こそすれ、完全に治せなかったことを責める気持ちなど毛頭ない。

 リズム良く寝息を立てるその寝顔は、一方通行の知る打ち止めの姿とは全く違う。
 一方通行が1番良く見る打ち止めは、見た目相応の幼さを全開にしたはしゃぐ様であり、
 一方通行を振り回す無邪気な奔放さであり、
 ガキの癖に一方通行を守ろうと抱き締める、小さな腕だ。

(…いつまで寝てンだ、くそガキ…)

 一方通行は打ち止めが昏倒した正確な時間を知らない。おそらくは一方通行がエイワスと対峙した時だろうと予想は付くが、彼が少女を連れ出したのはエイワスが現出してからかなり時間が経ってからだ。眠っているのではなく意識が無い。この状態になってから、一体どれ程の時間が経ったのか。

(食い意地が張ってる癖に寝坊してンじゃねェよ)

 ヨミカワが煮込みハンバーグを持ってきた、と少女は言った。最優先事項、と叫んだ。
 少女が目を覚まして最初に言う言葉は、そんな下らないことであって欲しい、と一方通行は思う。
 アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保して、そして目が覚めたら。
 目が覚めて、一方通行を見たならば。
 1万もの彼女のクローンを殺した彼を。

(…ッ!)

 番外個体の狂ったような叫びが再生される。
 彼が殺したミサカの叫びが一方通行を責め立てる。

 ミサカ達は聖人君子じゃない。
 じきに多くのミサカ達が憎悪に気付く。

 あのミサカは、一方通行を追い詰める為だけに作られた個体だ。彼を追い詰める為だけに派遣され、彼を追い詰めることだけを行い、彼を追い詰めることだけを全うした。
 それでも。あのミサカが言ったのは紛れもない事実であり、真実だ。

 一方通行はミサカ達を殺し続けた。
 ミサカ達は少しずつでも『人間らしく』成長している。
 ミサカ達はいつか一方通行への『恨み』という感情を発露する。
 ミサカ達はいつかミサカ達の敵を討とうとするだろう。
 ミサカ達はいつか一方通行を殺しに来るだろう。

 そしてそのミサカ達には当然、打ち止めの存在も含まれている。

 番外個体は言った、自分は負の感情を表に出し易いように調整されている、と。
 あの番外個体が一方通行をあれほどに憎悪していたのは人の手が加えられていたからであって、加えられていないミサカ達が今すぐ一方通行を殺そうとするということはないだろう。
 だがこの傍らの少女は、打ち止めだ。ミサカ達の上位個体であり、ミサカネットワークのコンソール的役割を担う少女だ。
 ミサカネットワークに新たに参入した番外個体が持ち込んだ感情、一方通行への殺意と憎悪、その影響を他の個体よりも強く感じてもおかしくないのではないか。
 目が覚めた途端、一方通行を憎悪の目で見るではないか。

(…、)

 アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保して、そして目が覚めたら。
 目が覚めたその時でなくとも。いつか『人間らしく』成長して、『恨み』という感情に気付いたら。
 一方通行を憎悪し、敵と狙い、殺そうとしたら。

「…、」

 一方通行は、打ち止めの額に触れた。風邪を引いた子供の熱を確かめるように。幻想殺しを持つ少年が触れたように。

 …打ち止めが自分を殺しに来ても構わない、と思う。

 アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保した後なら、幾らでも相手をしてやる。
 いくらでも恨めばいい。一方通行を守り、支えたその小さな手で、一方通行を殺しに来ればいい。
 それでも、一方通行は彼女に殺されてやる訳にはいかない。

 打ち止めは自分とは違う。
 相手が敵なら、自分と同じ悪党なら幾らでも殺せる、そんな世界の人間じゃない。
 敵でも味方でも関係ない、人を殺すこと自体に耐えられない、表の世界の人間だ。
 『人を殺してしまった』罪悪感、自責の念、永久に消えぬ苦しみ、そんな物から打ち止めを守るために、一方通行は決して殺されてやる訳にはいかないのだ。

 だから。
 打ち止めが一方通行に与えるものならば、抱き締める腕も、殺そうとする憎悪も、全て受け止めて守ってみせるから。

「…さっさと起きろ、ラストオーダー」


 そもそも彼は、ずっと昔に決めている。たとえ打ち止めを敵に回そうとも、打ち止めと彼女の世界を守る、と。


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 21巻が出る迄のフライング妄想。
 作者は一方通行さんに何か恨みでもあるんじゃないかと本気で疑った20巻でした。

 タイトルはぺぺろんPのmikiオリジナル曲「サテライト」より。


 訂正。
 打ち止めは眠りっぱなしじゃなかったですね。はい。列車の中で目覚まして一方通行と会話してますね。
 ごめんなさいすみませんP30〜のことすっかり忘れてましたorz
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