コールは2回で終わった。慌てて走って来たのが明白な荒い息遣いの、久方ぶりの声。






THANKS,FOR YOUR BIRTH






『はいっ!?』
「…ディアッカ?」
『え、あ、ミリアリア? マジ!?』
「マジって何よ。…私、ミリアリアよ。夜遅くにご免なさい」
『あ、いや。どうせいつも夜中まで起きてるし。
 …まさか電話くれるとは思わなかった』
「何それ…」


 嘘吐き。
 口に仕掛けた言葉を、しかしミリアリアはとっさに飲み込んだ。

 たった2回で取られた受話器。期待で上ずった声。彼女の性格なら必ず返事すると分っていたからこそ、それを待ち望んでいたのだろうに。


「…電話を貰ったら折り返し連絡することくらい常識でしょ」
『うん、まぁ…そうなんだけど』


 何となく2人とも言葉に詰まってしまい、奇妙な沈黙が訪れる。

 …私、何がしたかったの。

 父に言われて半ば反射的に電話をしたのはいいが、何を言うかまでは考えていなかったのだ。
 何の用だったのとディアッカに訪ねればいいだけの話だが、ディアッカ自身が伝言も何も残していなかったので、もう必要のないことだったのかもしれない。今彼が何も言い出そうとしないのもその為だからなのかもしれない。だからと言ってこれだけで切ってしまえば本当に意味が分らなくなる。
 実際には10秒にも満たない、それでも彼女には長く感じる沈黙の後、そう言えば、とふと気付く。


「ねぇ。どうやって私の家の番号を知ったの? 私教えてなかったでしょ?」
『ああ、そりゃキラが』
「キラ?」
『そ』


 かつて戦友でもあった友人の顔がミリアリアの脳裏に浮かぶ。
 ミリアリアは戦争終結後は余り会えていない。ディアッカは仕事の関係上もあり何度も顔を合わせているという話は、彼女も聞いていた。


『…てか、今日お前の誕生日だってのもアイツから聞いたんだよ。今朝ちょっと話してて、そん時にポロって』
「今朝?」
『そ。
 …だからプレゼントとかも全然用意できなくってさ。ご免な』
「…いいわよ、別に。わざわざプレゼントなんて」
『でも俺が送りたいから。俺の我が儘なんだから受け取ってくれって』
「…」


 ほら、やっぱり。
 デートの約束もプレゼントも何も用意していなかったのは、単純に知らなかったから。もし事前に聞いていたなら、彼は意地でも会いに来ていたのだろう。

 彼女が心から微笑んで受け取ってくれることはないと分っていても。


(…馬鹿みたい…)


 いつまでも諦めてくれないディアッカも、受け入れられないと言いつつも冷たく突き放すことも出来ない彼女自身も。


『…あの、さ。ミリアリア』
「…っ、何」


 僅かな声色の変化さえ気付いてしまう自分を嫌悪する。

 ミリアリアはまだトールを忘れられないでいる。彼の死を受け入れは出来たものの、未だ「昔の恋人」とは割り切れないでいる。それなのに今の彼女に最も近いのは――トールではなく、ディアッカだ。

 ディアッカ自身、ミリアリアの葛藤にも気付いてはいるのだろう。おそらく近い将来それで彼女が苦しむことになるだろうことにも。

 ディアッカがただ一言、「諦める」と言ってしまえば終わる問題だ。ディアッカとてミリアリアを苦しめたいはずがない。
 それでも――彼女を苦しめると分っていても。ミリアリアを求め、望む気持ちは制御できない。


『…もう日付越えそうだけどさ。まだ今日だし』
「…うん」


 長針は9の文字を越えようとしていた。
 2月17日、23時44分。まだ後16分はミリアリア・ハウの誕生日。


『誕生日おめでとう、ミリアリア』
「…うん、ありがとう」
『あ、なんか珍しく素直じゃん』
「…悪かったわね、普段は捻じ曲がってて。切るわよ」
『わ、ちょっ待ち! そこまで言ってないだろ!?』


 この先にあるものが見えていても、今はまだ目を瞑って。


 君が生まれてくれたこの日を祈って、君に会えた幸運に感謝しよう。








タイトルはかなり適当な英語です。
おそらく文法的には間違ってます。




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