小話帳

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 基本的に書きなぐったブツの収納場所。オチのない話も有り。
 Fate(原作が18禁)とエロっちぃ話はネタバレ機能で隠してます。

  手の届かないものこそ美しいと(妖狐×僕SS、渡狸×カルタ前提の夏目と渡狸)
2012/02/28 ◆ その他・漫画
 6巻以降の話なので一応隠します。


「もーちょっとイケナイ雰囲気が出てもおかしくないのにね〜」
「何の話だ?」
「あの2人」

 指さすまでもなく夏目の視線から該当の2人は知れた。
 グラマーな20歳のオネエサンと幼気ながらも大人ぶろうとする14歳の少年。仲睦まじく昼食を共にしている。そこに「イケナイ」や「アブナイ」というような形容詞は存在せず、ひたすら健全に微笑ましい雰囲気だけが流れている。

「年上のオネエサンと年下のオトコノコな訳じゃない? シチュエーションだけ見たら美味しいのにな〜って」
「同い年の時ですらロクに手も出せなかった男だぞ卍里は。奴にオスを求めるのは無謀と言うものだ」
「だよね〜」
「むしろカルタに手籠めにされる方が向いているのではないか? カルタはS。卍里はM。どうだ相性もぴったりではないか!」
「だよね〜」

 悦いぞ悦いぞー!と蜻蛉が高笑いを上げるが、あまりにも日常なので周囲の誰も気にしない。視線の先の2人は仲良く大皿のサラダを突きあっている。夏目と蜻蛉のテーブルに乗っているのは食後に用意したコーヒーのみで、飲み頃に冷めたカップを夏目は手に取った。

(相性もぴったり、か)

 あの2人は毎回そうだ。何度生まれ変わってもどんな出会いをしても。たとえ最悪の関係から始まったとしても、いつの間にかああなっている。
 カルタよりも早く出会っていた時もあった。カルタよりもずっと近くにいた時もあった。それでも、その時も、一旦出会ってしまえば。

(…)

 あの2人以外にもそういう関係の者達はいる。例えば反ノ塚と野ばらもそうだ。夏目はその能力故か他の先祖返りよりも多くの前世を記憶している。渡狸とカルタ、反ノ塚と野ばら。その時々で若干の姿を変えながらも毎回同じようになる。毎回同じように近しい関係になっている。それはまるで宿命付けられたように。
 渡狸と夏目のように、その時々で親しくなったり無関係だったりしない。

「そういえば聞いたぞM奴隷よ、貴様、卍里と仲良くなったらしいな?」
「んー?」
「肝試しの時の話だ」
「あー。あれは仲良くなったって言うか…て待って。蜻タン、一体どこから仕入れてきたのその情報?」

 借りは返すぜ、と逞しく宣言された直後に抱き着かれたのを仲良くなったと言うのかどうかはさておき、あれは誰もいない山道での出来事だった。別段秘密にする話でもないが特に誰かに語った覚えもない。
 意味もなく椅子に足をかけてマントを翻し、今の夏目のご主人様は高々と宣言する。

「情報源は秘密だ! 私は私の家畜をよりよく従順に調教すべく様々な手段を講じているからな!」
「うーん流石は蜻タンって言うべきなのかなー」

 テーブルの揺れから避難するべくカップを持ち上げる。飲み頃だった筈のコーヒーが早くも冷め始めていた。一気に残りを飲み干す気にはなれず、夏目は冷えて酸化した不味さを我慢することにした。

「別に仲良くなった訳じゃないよ。あれから話すようになった訳でもないし」
「貴様も根性が足りんな! カルタから奪うくらいのS気概を見せてみろこのドSが!」
「S気概って何さ。そもそもカルタたんから奪ってどーすんの。渡狸が女の子ならともかく、ボクにそーゆー趣味はないよ〜」
「男か女かなど大した違いではあるまい」
「いや大きいから。大きいからね」

 渡狸が渡狸なら男の子だろうと女の子だろうとなどとと、何処かの狐のような変質じみた気概は夏目にはない。渡狸が男の時点でアウトだ。何度生まれ変わりどんなに親しい関係になっていようとも、夏目が男で渡狸も男の時点で問答無用でそういう対象から外れている。カルタから奪おうなどと思う筈もない。
 渡狸が女の子ならともかく。

「男の子と女の子の違いは大きいし。ボクは別にカルタたんから渡狸を奪おうなんて思うレベルで渡狸のこと好きじゃないしね〜」
「ふん。まぁそういうことにしておいてやろう」

 素直に認めはせぬか。それもまた悦いぞー!などと叫んでいる蜻蛉は放っておいて夏目は視線を件の2人に戻した。
 食事は食べ終わったらしい。カルタの前には巨大なパフェが鎮座しており、着実のその量を減らしていっている。時折渡狸に「食べる…?」とスプーンを差し出しては「いいいいらねぇよガキじゃあるまいし!」と真っ赤になるという馬鹿ップルっぷりだ。

(あー本当、微笑ましいカップル)

 女の子なら良かったのに。
 あの肝試しの時にそう思ったのは紛れもない本心だ。渡狸が女の子なら良かった。渡狸が女の子でなくて良かった。

 絶対に叶いようのない条件を前提に据えるのは、本気で叶える気が無いからだ。

 敵うと思えないから叶える気が無いのか。叶える気が無いから敵わなくてもいいと思えるのか。そんなことに悩むのももう馬鹿馬鹿しい。
 敵わなくていい、叶わなくていい。だからその代わりに願う。今度こそ幸せに生きて欲しいと。

      =================

 渡狸×カルタが微笑ましく可愛らし過ぎて鉄壁カップルなんですけど、カルタがいなかったら確実に夏目×渡狸(リバ可)にハマっていただろうなと。
 6巻はかげさまにハートをぶち抜かれた巻でしたが、夏目→渡狸も滅茶苦茶美味しかった。

 なお、渡狸とカルタ、反ノ塚と野ばら姐さんが毎回近しい関係になる、ってのは私の妄想…もとい願望です。公式ではありませんのであしからず。夏目が他の先祖返りより多くの前世を記憶してるってのもそう匂わせる表現はありましたが明言はされていません。
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  銀月ふたつ・2(犬夜叉、殺生丸と母)
2009/02/19 ◆ その他・漫画
 幼少の頃から養育どころか一年に何度も会わなかった。殺生丸が元服を迎えた頃からは10年に一度も会わなくなった。冥道へ赴く目的で宮を訪れた一件以来、顔を合わしたことも会いたいと思ったこともない。
 殺生丸にとって母とは「自分を産んだ女」という認識しかなかった。そして母もまた殺生丸を「自分が産んだ子」という認識しか持っていないことも分かっていた。母子としての愛情などお互いの間には全く存在せず、故に殺生丸は母が何故この屋敷に下りて来たのか分からなかった。その、用件を告げるまで。

「あの娘を娶ったそうだな?」

 不快を通り越して剣呑ささえ纏う。並みの妖怪程度なら一睨みで肝を潰されてしまいかねない強烈な邪眼。だがさすがは実母と言うべきか、ふん、と鼻で笑って流してみせる。かつて西国を統治した大妖怪の正室であり、そして今西国を統治する大妖怪の母である彼女もまた、並々ならぬ胆力と妖力の持ち主であった。

「何だその目は。まさか私がお前に説教をする為に来たのだとでも思ったのか?」
「では何の用だ」
「ふん、この馬鹿息子めが」

 目的は違うのかもしれないが、この母が重臣などから陳述されているのは間違いなかった。
 先代に続いて殺生丸までもが人間の娘を娶る――、それは重臣にとってとても許せるものではない。まして先に正室との間に跡継の殺生丸を儲けていた先代と違い、殺生丸はただの一人も室すら迎えていない。その状況で人間の娘を妻とするとは。
 殺生丸は母が重臣に請われて提言に来たのかと思った、しかし母はそれを鼻で笑う。では一体何の用だと言うのか。殺生丸に母が自分に会いに来る用など思いつかない。

「あの娘は…今はおらぬか。まあいい。いずれ会うこともあろう。或いは会わないまま死ぬか」
「…」

 妖怪の寿命は長く、人の一生は短い。妖怪にとって10年とは「たった」と称される時間だが、人間には「そんなにも」と称される年月だ。それだけの隔たりを持つ生き物同士。共に過ごせる時間は人間にとっては一生でも妖怪にとってはごく僅かな時間――。

「まったく、変なところが父親に似たものだな、お前は。人間を娶るなど――一昔前のお前ならば、考えることすらなかっただろうに」

 たった一瞬、ふ、と声が和らいだ。それは何かを懐かしむようでもあり、僅かに母としての慕情を感じさせる色すら内包していた。
 だがそのような表情を見せたのも一瞬、すぐに皮肉げなものと戻る。ではな、と呟くのと同時、優雅に裾を翻し、殺生丸に背を向けていた。

「お前が誰を娶ろうが私の知ったことではないよ。お前の好きに生きるがいい」
「…無論だ。言われるまでもない」
「ふん、全く可愛げのない」

 ああそうだ、と、本当に思い出した、と言う風で、母は息子に振り向いた。

「何の用か、と聞いたな? 知己を訪ねるのに近くを寄ったからの」

 ふと気が向いただけだ、と言う。その言葉は本心からに違いない。そして、「好きに生きろ」と告げた思いも。
 幼少の頃ならともかく、今更「母」を察したとて、今までの関係も感情も変えようがない。そして母も変えることを望んでいるわけではないと、そこまで気付いてしまっている。
 故に殺生丸はただ一言。

「二度と来るな」
「は、生意気を言う」

 ざ、と土を踏む音と共に、銀月が1つ空を駆けた。
 ――或いはかの娘に会いに来たのかもしれなかった。それでも、地に残った銀月はその軌跡を見送ることすらしなかった。


    =====================

 やっと最終巻読みました。
 男が女に着物贈るってそーゆー意味か、それとも虫除けを狙ってか。
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  銀月ふたつ(犬夜叉、殺生丸と母)
2009/02/18 ◆ その他・漫画
 静謐な森の中にその屋敷は建っていた。
 邸宅と言うには小さすぎ、家と言うには大きすぎる作り。この屋敷の主が所有する広大な城と多くの別宅の中でも1番小さい屋敷だ。形の上では相続してはいたものの、主が訪れることは一度もないだろうと思われていた。この屋敷は人里に比較的近い場所に建てられており、主は人間嫌いで知られていたからだ。
 その主が、今この屋敷に滞在していた。先代である父を亡くして以来ずっと放浪していた彼がやっと1つ処に留まってくれた、と家臣は歓迎した。その場所が本邸でないことは問題ではなかった。常に連絡が取れる場所に留まっていること、それだけが重要なのだ。
 そもそも彼はこの国の西方を統治する大妖怪の後継だが、その彼が実際に執り行う政務は、人間の国家と比べると驚くほど少ない。そもそも妖怪たちは人間のように年貢やら夫役やらを収める必要がなく、政府と呼ばれる程の官庁も存在しない。妖怪を統べる者の政務とは主に多種族間の揉め事の仲裁であり、それも家臣たちが代理として出向いて解決するのが殆どだ。彼に課せられた仕事はそれらの懸案の決裁や事後処理の承認であり、彼自身が出向いて仲裁せねばならない大事などは100年に1度も起これば多い方だ。
 故に、彼はこの屋敷で静かに暮らしていた。侍女や下働きも必要最低限しか置かず、定期的に決裁の必要のある書類を置いてゆく飛脚以外には訪れる者も殆どいない。他者に余計なことを煩わされるのを嫌う彼にとって理想的な環境と言えた。

 書斎に使っている部屋から何の気なしに外を眺めていた彼だが、不意に表情を険しくした。
 侵入者を感知したのだ。
 この屋敷は人里に近いが人は決して近づかない。主が認めた者以外は近寄れぬように施した呪がある以上に、本能的に「近付いてはいけない何かがいる」と感じ取って恐れているからだ。近辺に住む妖怪も同様であり、故に屋敷にやって来るのは飛脚と、それから主の知己以外はありえないはずだった。
 彼は近付いて来ている者の匂いに覚えがあった。だがその者がやって来る理由が全く知れない。戦う必要はないだろうと思いつつも、半ば本能的に彼は刀を取った。
 やがて侵入者が主の前に現れた時、彼はいつでも刀を抜ける体勢まで取っていた。

「何用だ」
「わざわざ尋ねて来た母に対する第一声がそれか、殺生丸? 全く、可愛げのない息子だ」

 母と名乗った通り、侵入者は主――殺生丸の実母であった。男性と女性の違いを差し引けば瓜二つと言っても差し支えのない容貌である。とても一児の母とは思えぬ若さと秀麗さの為、姉と弟と言われても容易く納得してしまうだろう。
 やれやれ、などと呆れたように声を上げているがその実は何とも思っていないのは明白だった。そもそも実の母子としては淡白に過ぎる関係である。母は普段自分の宮で暮らし息子のことなど1日に1秒も思い出さないことも珍しくなく、殺生丸は母に会う度にまだ生きていたのかと本気で思っている。
 知己ではあるが、殺生丸はこの母が侵入することを許してはいなかった。呪を突破したことを咎めたくはあるが、十中八九咎めたとて意味はないだろう。何しろ実の母のこと、妖力の質が似ている上に殺生丸の呪の癖も知られている。何度呪を掛け直してもこの母に通じないのは間違いない。
 仕方ないと諦めはしても、不快になるのはまた別の話だ。殺生丸は自身の感情を隠そうともせずに実母を睨みつけた。

「用がないなら早々に去れ」
「用ならあるとも。そう早々と追い出そうとしてくれるな」
「ならばさっさと用件を言え」
「あの娘を娶ったそうだな?」

 息子同様に滅多に表情を作らない彼女が浮かべた笑みは、新しい玩具を見つけた子供のように底意地の悪いものだった。


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 ごめんここで終わり。もし続いたら奇跡。
 殺りんのつもりで書き出したのに、気が付いたら母上が出張ってました。
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  日番谷と雛森(BLEACH)
2007/12/20 ◆ その他・漫画
 誕生日おめでとう。




 西空に沈み行くは上弦の月。半月よりは肥え、しかし未だ望月には届かない。
 冴え渡るは冬の空。雲に遮られぬが故に留まらぬ、昼の陽のぬくもり。
 亥の刻も3つを越えようとする時間。最早眠りに付かぬ者の方が少ない夜更け。
 十番隊と看板を掲げるその宿舎を急ぎ歩くは、本来ならばこの場におらぬはずの者。

(ああ、もう…っ! どうしてこんな日に限って…!)

 五番隊副隊長、雛森桃。常ならば暢気と称される程に穏和な表情は焦燥を浮かべ、真冬だと言うのに汗までもうっすらと滲んでいる。
 極力音を立てないように、それでいて常に無いほどに足早に。彼女が向かうのは、この宿舎の主とも呼べる者の部屋。

 あまりに急ぎ過ぎていたからだろう。雛森は自分の足音を立てないようにと注意していたが、前方には不注意になっていた。曲がり角の向こうから明らかに足音が聞こえてきているというのに全く気付かないほどに。

「…あっれー? 雛森じゃない」
「あ、乱菊さん。こんばんは」

 十番隊副隊長、松本乱菊は雛森の挨拶に、こんばんはー、と軽く手を振る。二人は副隊長同士ということもあって比較的親しい間柄だ、普段ならば軽く立ち話をするところである。
 しかし挨拶もそこそこに、雛森はその場を離れようとする。

「ごめんなさい、急いでるから失礼します」

 松本の返事も待たずに歩き始めた雛森に、松本は悪戯めいた声をかけた。

「なぁにー? うちの隊長に夜這いー?」
「よば…! ちち違いますっ! 変なこと言わないで下さいっ、もう!」

 雛森は振り返ってまで否定するが、松本は背中を向けてひらひらと手を振っていた。まるで置き土産とでも言わんばかりの一言だ。もう、と呟いて、再度雛森は足を急がせた。

(もう、もうっ! 乱菊さんってば何てこと言うの!)

 雛森の目的地は確かに「うちの隊長」の部屋だが、しかし目的は断じて「夜這い」などではない。雛森と「うちの隊長」がデキていると一部で噂されていることは雛森も知っているが、雛森自身は絶対に違う、と否定している。
 確かに雛森と彼とは親しい間柄である。所属する隊の違う隊長と副隊長が名を呼び合っているのだから、それが付き合っている証左だと言われても仕方の無いことだろう。
 だが、違う。彼と雛森はそう言う関係ではない。

(だってあたしたちは…)

 目的の部屋に着いた。
 遅くになり過ぎたからもう眠ってしまっているかと心配していたのだが、幸い明かりが見える。驚かさないよう、しかし確実に聞こえる声量で、雛森は部屋の主に声をかけた。

「…日番谷くん」
「…ああ?」

 心底不審げな返事。入っていいのかな、と雛森が思案するよりも早く、障子は中より引き開けられた。

「…雛森? 何だ、こんな時間に」
「えへへ、こんばんは」
「ああ…、いい。とにかく入れ」

 誘われるままに雛森はこの部屋、十番隊隊長である日番谷冬獅郎の部屋に招き入れられた。
 流石に吹きさらしの廊下と違って室内は暖かい。日番谷は雛森を火鉢の傍に行くよう勧める。雛森自身は気にしていなかったが、彼女の手も顔も赤くなっていた。

「一体何なんだ? こんなクソ寒い夜に、何か急用か?」
「うん、今日中じゃないとだめだから」
「…?」

 雛森が紅潮しているのは寒さだけではないようだった。今日が締切で何かあったっけな、と日番谷は心当たりを探す。だが全く検討が付かないし、そもそも執務関係ならば他隊の雛森が来るのはおかしい。

「日番谷くん、分からない?」
「いや、全く」
「えへへー」

 日番谷は勝ち誇るように笑う雛森に少し顔を顰める。それと同時に懐かしいとも思う。
 こんな風に笑う時の雛森は、ひどく幼い。純真素直な性格そのままの笑顔だ。昔二人がまだ流魂街に住んでいた頃からずっと変わらない。
 何があってもこれだけは変わらない、変えさせない。そう誓わせるに充分な。

「じゃんっ、これ!」
「…ああ?」

 雛森が差し出したのは小さな箱だった。千代紙で綺麗に包装されている為に何が入っているのか全く分からないが、そう重量のある物でもない。この箱が何で、一体何の為に差し出されているのかも分からず、日番谷は首を傾げる。
 そんな日番谷の様子を見て、雛森はもう、と口を尖らせて、しかしすぐに微笑った。自分のことに執着する性格ではないけれど、それでも今日という日を忘れるなんて、と。

「誕生日おめでとう、日番谷くん!」
「…」

 満面の笑顔に祝福されて、ようやく日番谷は得心がいった。言われてみれば確かに今日は12月20日。日番谷冬獅郎の誕生日だ。

「…ホントに忘れてたの? 自分の誕生日だよ?」
「自分のだから忘れるんだよ。
 …まぁ、何だ。サンキュ」
「どういたしまして」

 開けていいかと許可を得て、日番谷は受け取った包みを開く。包み紙の下の箱の中身は墨が3本入っていた。
 日番谷に墨の良し悪しは分からないが、こうも大事に包まれていると言うことは、それなりに値の張る高級品なのだろう。
 高級か否かよりも、日常的に使う実用品を送られたことが日番谷には嬉しかった。以前十三番隊の浮竹に実寸大の自分の人形を贈られた時などは気持ち悪い上に使い様も皆無で困ったものだったから、尚更だ。
 幸せを噛み締めてほのかに緩んだ口元に、雛森は密かに安堵したのだった。

「遅くにごめんね。でも今日中に渡したかったから…」
「それはまぁ、いいけどな。お前普段からこんなに遅くになってるのか?」

 仕事遅ぇな、と揶揄する日番谷。そんなことないもん、と雛森はむきになって反論する。

「いつもは普通の就業時間に終わらせてるの! 今日に限って臨時の連絡会とか大量の書類不備とかが重なっちゃって…。これでも急いだんだよ?」
「…別に明日でもいいだろ、こんなの」
「よくないの! もう、日番谷くんってば自分のことなのに無頓着すぎ!」

 自分のことでもないのに怒りだす雛森に、日番谷は苦笑する。日番谷にはそこまで誕生日に拘ることを理解出来ないが、それでも自分を大切に思ってくれているからこその怒りだ。甘んじて受け入れなければならない。

「…えっと、それじゃ遅くにごめんね」
「ああ、ちょっと待て」
「え?」

 用も終えたことで早々に席を辞そうとする雛森に、日番谷は手元の紙袋を渡した。店名が印字された袋に入っていたそれは、流魂街にいた頃から馴染みだった店の甘納豆。日番谷の好物だ。

「これ…」
「婆ちゃんから差し入れが来てたんだよ。それ食ってちょっと待ってろ」
「ええ、いいよ。もう遅いんだし長居は…」
「茶くらい飲んでいけ。まだ体温まってないだろ、そんな状態で出て行ったら凍死するぜ?」
「凍死って…そんな大げさな」

 遠慮する雛森を尻目に、早々に日番谷は茶の準備に行った。
 こんな時間ではもう誰にも言いつけることも出来ない。お茶を飲もうと思ったら態々台所まで湯を沸かしに行かなければならない。
 雛森に温まれと言いながら自分は凍える廊下を通って台所まで向かっている、その馬鹿馬鹿しいまでの矛盾。

「…もう、シロちゃんってば」

 ぶっきらぼうだけど、とても優しい。雛森は堪えきれずにくすくすと笑った。
 手渡された甘納豆は昔と変わらず甘くて美味しい。今度の休みは一緒にお婆ちゃんの家に帰ろうと決めた。


 胸を焦がす恋情などは存在しない、しかし心を暖める情愛がある。
 そんな二人を敢えて言葉で表すとするならば、それは家族と言うべき優しい関係なのだ。



  =================

 日番谷隊長、お誕生日おめでとうございます!!

 ってことで、お誕生日おめでとうございます小説でした。
 いやー凄いわ。気付いたの今日の夜の9時。お風呂入ってる時にふっと思い出してね。こりゃのんびり浸かってる場合じゃないって急いで上がって、急いでコレを書き上げました。
 ネタの貯蓄とか全然無かったのに、完全にゼロの状態から二時間弱で書き上げられるだなんて。愛情パワーって凄いね!(笑)
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  アリスとオーランド(パンプキン・シザーズ)
2006/11/29 ◆ その他・漫画
 小さい体に大きい心。
 大きい体に小さい心。

 どちらも不完全な存在で、どちらも足りないものばかり。
 だけどふたりが一緒なら。
 きっと出来ることは増えるはず。



「お前も学習しないねぇ…」
「は、はぁ…」

 いつもの病院、いつもの病室。
 とある任務で暴徒と化した民衆に襲われ、アリスを庇ってオーランドが怪我をし、入院先で散々説教。
 とっくにアリスは怒りを撒き散らしながら退散しており、残されたのは項垂れたオーランドと置いてけぼりにされたオレルドとマーチスだ。
 これもまた、いつものことだった。

「少尉を守りたいってーのは分かるけどな、もうちょっと手段を選べよ、手段を。少尉が怒るのも当たり前だぞ」
「はぁ…でも考えてたら間に合いませんでしたし…」
「そうじゃなくて。少尉を助けて伍長が犠牲になるような助け方じゃなくて、少尉を助けて伍長も無事になるように努力しろってこと。今はまだ入院程度ですんでるけど、下手すれば一生歩けなくなるとかもあるんだから」

 オーランドの助け方は、とにかく自分の体に頓着しない。アリスが無事なら自分はどうなっても問題ない、そういう助け方をする。

 今回の入院だってそうだった。
 鍬で襲ってきた暴徒、その先にいたアリス。
 手を引くだけで良かった。オーランドの力なら一息にアリスを安全な距離まで退避させられた。そして最悪の瞬間さえ逃れれば、あとはアリスは自分で対処できる。
 だが、オーランドはアリスの手を引いただけでなく、自分の体をアリスと暴徒の間に滑り込ませた。
 …結果、背中に大きな裂傷を得た。
 凶器は手入れされた刃物ではなく、野良仕事の汚れが付いたままの鍬。荒い傷口は治り難く、汚れは炎症を引き起こした。
 そして場所は背中。もし脊髄を傷付けていたら下半身不随もおかしくない。

 マーチスの忠告はもっともなもので、アリスの怒りも当然だ。アリスは守られるを良しとする性格ではないのだから。
 とっくにアリスの性格もわかっているだろうに、それでもオーランドは同じ事を繰り返す。

「でも…」
「でも、何だよ。何か理由でもあんのか?」

 あるなら言ってみやがれ、と先を促したのを、オレルドは盛大に後悔する事になる。

「少尉は…きれいだから…。ちょっとでも傷が残ったら大変じゃないですか」
「…」
「…」

 沈黙が病室を支配した。それを作り出したオーランドは全くの無自覚。呑気に急に黙った二人を不思議がった。
 かなりの時間を回復に要した後、オレルドとマーチスは同時に大きく大きく息を吐いたのだった。

「お前なぁ…。そーゆーことは少尉本人に言え」
「は? …あ!? ちちちち、違います! いえそのそういう意味じゃなくて! 少尉はおれみたいに全身傷だらけじゃないから、その…!」
「そーゆー意味でもこーゆー意味でも一緒だっての。行くぞマーチス。つまんねぇもの聞いちまった」
「…そうだね。じゃあお大事に、伍長。僕もそういうことは少尉に直接言った方がいいと思うよ」
「いえその、だから違うんです…!」


 ちなみにオーランドは退院後オレルドに「ほらほら言えって、あんなセリフは少尉に直接言わなきゃ意味ねえだろ?」と盛大にからかわれることになる。
 マーチスはオレルドに盛大に呆れつつも今回ばかりは助け舟を出してくれず、アリスからは「何を遊んでいる!」と怒られるという、散々な結果が待っているのだった。



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 ハマったら即執筆とゆー自分が笑えて仕方ないです。
 冒頭の詩っぽいものと小話が全く一致しません。推敲無しの一発書きな小話帳には多いことで、これもまた笑えます。

 伍長と少尉はいいですねーウフフー。
 5巻現在では伍長→アリスはまだ恋愛っつーより「おかあさん」の域を出てない感じでした。上記「きれいだから」発言は恋愛の好きがなくても普通にそう思ってるだろ、伍長。あいつは間違いなく天然だ。
 アリス→伍長は発展途上ってとこですかね。少なくとも異性として意識はしてる、けどまだ未自覚、みたいな感じ。ドレス姿を見られて恥らうアリスはもの凄く可愛かったです。
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