小話帳

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 基本的に書きなぐったブツの収納場所。オチのない話も有り。
 Fate(原作が18禁)とエロっちぃ話はネタバレ機能で隠してます。

  preciously treasure 2(PT・セイバーと綾香)
2012/06/28 ◆ Fate(型月)
 頭頂部にタオルが被せられる。その上から両方の手が添えられる。ぎこちなく髪にタオルが押し付けられ、そして水分を吸わせていく。
 タオルの位置を少しずつ移動させ、頭頂部から下へ、下からまた上へ。いかにも恐る恐るといった手付きなのは慣れていないからだろう。幼少時に家族を亡くし、それからずっと1人で生きてきた彼女だ。誰かの世話をする、という行為自体に慣れていないのだろう。
 慣れていなくともその動きに雑さはない。むしろ丁寧過ぎる程だ。これでいいのかな、髪の毛を引っ張ったりしちゃってないかな、と、怖々に。

「セイバーはいつもどうしてるの?」
「タオルで水気を取って、それで終わりだよ」
「終わりって…拭くだけ?」
「そう。さすがに冬はもう少し念入りに拭くけど」
「何それ」

 背後にいるせいで綾香の顔は見えないが、きっと呆れているのだろう。そういう声をしている。

「私にはもっとちゃんと手入れをしろーなんて言ってたのに、自分はすっごく適当じゃない」
「女性の髪と男の髪を一緒に考える方がおかしいと思うけど?」
「それは、そうかもしれないけど。でも」

 タオルドライは終えたようだ。綾香は水分を吸って重くなったタオルを洗濯籠に投げ込み、代わりにドライヤーを手に戻ってきた。
 女性と男性の違いを差し引いても、僕の髪はわざわざドライヤーを使わなければならない程の長さはない。それこそ水気さえ取ってしまえば後は自然に乾いていく。女性のように美しさを保つ必要はないし魔術師でもないのだから髪に特別な意味など持たせていない。強いて言うなら剣を振るう際に邪魔にならなければいい、程度の認識だ。

「…ちゃんとドライヤーで乾かして。置いてる場所は分かるでしょ?」
「だけどこれは綾香の持ち物だろう?」

 洗面台に置いているのは知っているが、彼女の私物を勝手に使うのは気が引ける。だが綾香は引いてくれなかった。

「いいから、ちゃんと乾かして。…風邪、引くでしょ」
「…」

 ぽつりと付け加えられた一言はドライヤーのスイッチを入れるのとほぼ同時だった。聞かれたくないのか誤魔化したいのか。綾香はそれ以上は何も言うことなく、黙々とドライヤー作業に没頭した。
 熱風を頭皮に感じながら、懐かしいような、どこか面映いような気持ちにかられていた。
 誰かに髪を乾かしてもらうなんて一体いつぶりのことか。それこそ自分の世話もできない幼少の頃以来だろう。前に乾かしてもらったお返しに、とのことだが、あれは僕が綾香の髪に触ってみたくて我侭を言ったようなものだったから、我侭にお返しがもらえるなんて随分とおかしな話だ。それに綾香にこうして髪を触ってもらえるのは、ただのお返しよりもっとずっと上等な体験だ。

「はい、お終い」
「うん、ありがとう」
「今度からはちゃんと乾かしてよ?」
「約束は出来ないかな。ああ、だけど」
「だけど、何」

 眉間に小さな皺を作った不満顔。僕を心配して言ってくれているのだと分かっていると、何か条件があるの、と責めるような視線も満面の笑みで受け入れられる。

「君が乾かしてくれるなら、喜んで受け入れるよ」
「〜!」

 触れた髪先には熱が残っている。この熱がドライヤーの温風の熱ではなく綾香が触れていた熱だといい。きっとそうなら、この熱をずっと持ち続けていたいと思えるから。


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 先日の逆バージョン。
 延々とセイバーが惚気ているだけのような…(笑)
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