エロさは皆無ですが、ＯＶＡの特典映像が元ネタなので一応隠します。
どうしようもないことだって、分かってる。
だってこの人は何百年も昔の人だ。今よりずっと過去、ここよりずっと遠いところで生きて、そして死んでいった人だ。この人が今ここ、私の目の前にいるのは、一時的なものでしかない。聖杯の力を借りた一時だけの奇跡でしかなくて――いつか、必ず還る人だ。
だから、どうしようもないことなんだ。私がこの人を――だなんて。
「綾香」
初めてだ。こんな風に名前を呼ばれるのは。父さんは父さんなりに愛してくれていたけど、厳しい人だった。お姉ちゃんは優しくしてくれたけど、――だった。
こんな風に私を呼んで、手を伸ばして、――触れてくれるなんて。
「…セイ、バー」
頬に触れる。剣を握る手なのに不思議と柔らかい。自分以外のぬくもりが気持ち良くて目を閉じた。目を閉じたら一層、頬に触れる手の感触を強く感じた。優しく暖かく、言いようのない感情が私を包む。
頬に触れていたのは右手。じゃあ右の瞼に触れているのは何？ 目を開けて確かめたい、このまま触れられていたい。矛盾する願いが私を止めてしまう。やがて右の瞼の感触は離れて、今度は左の瞼に触れた。さっきと同じ感触。ふわりと、泣きたくなるような。
「セイバー」
一時だけの奇跡。それは今この瞬間のことだ。遠い時代、遠い場所の人と会って、触れて、ぬくもりを感じている。
瞼の感触が離れたから目を開けた。透き通るような緑が視界に飛び込んでくる。綺麗な、とても綺麗な瞳。そこに自分が映っているのが不思議でたまらない。
この綺麗な人が、私を――だなんて。不思議で、不可解でたまらない。
ああでも。不思議で不可解でも、嘘じゃない。この人はそういう嘘を吐く人じゃない。だから私は――だから私も――
「綾香。君を、愛している」
不思議で不可解で、嬉しくて幸せで堪らない。
逢う筈の無かった人。ただ一時の奇跡でしかない出会い。好きになってもどうしようもない人。
だけど。それでも私は、どうしようもなくこの人を――
「私も――」
この人を、誰よりも、何よりも、愛している。
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タイトルは
『君と言う名の翼』（コブクロ）より。