古事記パロかつ近親相姦パロです。
そういうのが苦手な方はお読みになりませんよう。
「衣通姫」は「そとおりひめ」と読みます。
「その美しさが衣を通してあらわれるようだ」という意味。
「総士は…知ってたのか?」
「…最初は知らなかった。乙姫と異母兄弟だとは知っていたが、――同母の兄弟がいると知らされたのは――ごく最近になってからだ」
「…そっか。だからか? だから俺を避けるように――?」
「…」
苦々しげに、総士は顔を逸らす。それはどんな言葉よりも強く肯定を表していた。
知らなかったのは自分一人、決して報われない恋に落ちてしまったのは自分一人。一騎は自分が頭のいい人物とはとても思っていなかったが――まさかここまで馬鹿とは思っていなかった。
知らず知らずの内とは言え――母を同じくする兄弟に、恋をするなんて。
「考えてみれば、辻褄も合うよな。俺の母は俺が2歳になる前に死んで、総士の母君は総士を生んですぐに死んだったよな。時期もぴったりじゃないか」
共に同じ頃に母を亡くしたと知ってはいても、まさか同じ母だなんて思いもしなかった。
共に父に似てしまったせいで、一騎と総士が似ているところなんか一つもない。だから気付くはずもない。
気付かないままに恋をして――気付かないままに戻れない所まで踏み込んだ。
異母兄妹の結婚は認められても、同母兄妹の結婚は認められない。ましてや一騎と総士は同性だ――そもそも結婚という形を取ることも出来ない。
そして何よりも総士は、
「…僕は巫子だ」
「知ってる」
一騎はどこか呆然と手を伸ばした。
夢を見ているような心地だった。途轍もない悪夢なのに、途轍もなく甘い。
「精進潔斎をした者以外、僕に触れることは許されない」
「…そうだな」
指先が総士の頬に触れる。近衛の一騎とは違って潔斎したお社の中にいるのが大半の総士は、とても白い。とても白くて柔らかくて、一騎とは全然違う。
「精進潔斎をした者以外、僕が触れることは許されないんだ…!」
「許されないって――誰に? 神――か?」
とても白くて、とてもきれいで、同性とすら――同じ人間とすら思えないのに、同じ母から生まれた兄弟だなんて、とても信じられない。
信じられないのにそれは事実で――どうしようもない現実で――それなのに、この激情はあっさりと堰を切った。
「そうだ。この日の本全てにおわす八百万の神々――それらと人とを繋ぐのが、僕の役目だ。軽々しく只人が触れていい存在じゃない!」
「分かってる。だから、罰は俺が受けるよ」
「…!」
引き寄せて、抱きしめる。
とても細いのに、とても暖かい。残酷で甘美な悪夢の中、腕の中のぬくもりへの愛おしさだけが一騎を現実に繋ぎ止める。
この愛おしさに触れていられるのなら、何を引き換えにしても構わないと思う。
「総士に触れるのが罪なら、罰は全部俺が受けるから。俺が勝手に総士を好きになって、勝手に総士に触れてるだけなんだから――だから、総士は何も悪くない」
「…馬鹿を言うな! 誰が勝手に――だと!?」
「俺が勝手に、だよ。…振り払ってくれ。俺を突き飛ばして、拒絶してくれ。俺はもう自分では止められない。俺は総士が好きだよ――どうしようもないくらい、愛してる」
「馬鹿を――」
抱き潰すような力を少しだけ緩めて、一騎は総士の顔を覗き込んだ。
きっと怒っている、そう思ったのに、総士は、
――総士は、涙を流して。
「どこまで馬鹿なんだ、お前は…!」
「…総士?」
だん、と一騎の胸を打つ両手。それは拒絶の為ではなく、離れる為ではなく、ただ小さな子供が駄々をこねているような。
「誰が勝手に好きになった、だと? 誰が――誰に拒絶しろと言っているんだ! お前は何も分かっていない!」
「総士…? 分かってないって、何が…」
泣き顔もきれいだな、なんて。
場違いなことを思った。
「…どうして僕がお前を避けるようになったと思ってるんだ。先に好きになったのは僕の方だ…!」
「…」
耳に入ったはずの言葉が信じられず、一騎はただ呆然と総士を見つめ続けた。やがて業を煮やしたように総士が背を伸ばして、腕を一騎の首に回して――
――唇が触れあう。
「…お前一人の罪じゃない。罰を受けるのは僕も同じだ…」
「…そう、し」
堰は完全に決壊した。止められる者は何処にもいない。
罪と知っても止まらぬ恋は、行く末の知れぬ未来へとただ2人を押し流す――
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ご拝読ありがとうございました。
元ネタは
衣通姫伝説でした。詳しくはwiki先生を参照。
掻い摘んで言うと、「同母兄妹が恋をした。妹は巫女だったので恋愛はご法度だった。つー訳で兄は失脚・流罪。妹は兄の後を追いかけて、最後は心中」です。
上記・wikiにもある通り、平安に入る頃までは、兄弟でも異母兄弟なら結婚はオッケーだったらしいです。同母なら異父兄弟でもアウト。
奈良時代の天皇家の家系図なんて普通に異母兄弟間で結婚してますよ。姉妹で同じ夫に嫁いで姉が生んだ息子と妹が生んだ娘、異母兄妹であり従兄妹でもある2人が結婚するとか。あの頃の家系図って現代日本の常識で考えると結構カオス。
あと、当時の巫女さんってのも結構厳格な職業(?)でした。
有名どころだと伊勢神宮の斎宮。一旦斎宮に任じられたら、たとえ親兄弟だろうと絶対に男に会ってはいけかったんだとか。その辺りも詳しく調べると興味深いです。
「具合はどうだ?」
「変わりゃしねェよ」
「…そっか」
会話はそれだけで終了し、少年はその部屋から退出していった。すまない、と侘びるような気配が残されたが、一方通行はそれに何も返さない。何も返しようが無い。
一方通行の傍らで眠る少女の容態は一見安定している。まるではしゃぎ疲れた子供がただ眠っているだけのように。一時的とは言え脂汗を常時流していた状態からここまで安定させたのは紛れも無く少年の右手の力だ。一方通行は感謝こそすれ、完全に治せなかったことを責める気持ちなど毛頭ない。
リズム良く寝息を立てるその寝顔は、一方通行の知る打ち止めの姿とは全く違う。
一方通行が1番良く見る打ち止めは、見た目相応の幼さを全開にしたはしゃぐ様であり、
一方通行を振り回す無邪気な奔放さであり、
ガキの癖に一方通行を守ろうと抱き締める、小さな腕だ。
(…いつまで寝てンだ、くそガキ…)
一方通行は打ち止めが昏倒した正確な時間を知らない。おそらくは一方通行がエイワスと対峙した時だろうと予想は付くが、彼が少女を連れ出したのはエイワスが現出してからかなり時間が経ってからだ。眠っているのではなく意識が無い。この状態になってから、一体どれ程の時間が経ったのか。
(食い意地が張ってる癖に寝坊してンじゃねェよ)
ヨミカワが煮込みハンバーグを持ってきた、と少女は言った。最優先事項、と叫んだ。
少女が目を覚まして最初に言う言葉は、そんな下らないことであって欲しい、と一方通行は思う。
アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保して、そして目が覚めたら。
目が覚めて、一方通行を見たならば。
1万もの彼女のクローンを殺した彼を。
(…ッ!)
番外個体の狂ったような叫びが再生される。
彼が殺したミサカの叫びが一方通行を責め立てる。
ミサカ達は聖人君子じゃない。
じきに多くのミサカ達が憎悪に気付く。
あのミサカは、一方通行を追い詰める為だけに作られた個体だ。彼を追い詰める為だけに派遣され、彼を追い詰めることだけを行い、彼を追い詰めることだけを全うした。
それでも。あのミサカが言ったのは紛れもない事実であり、真実だ。
一方通行はミサカ達を殺し続けた。
ミサカ達は少しずつでも『人間らしく』成長している。
ミサカ達はいつか一方通行への『恨み』という感情を発露する。
ミサカ達はいつかミサカ達の敵を討とうとするだろう。
ミサカ達はいつか一方通行を殺しに来るだろう。
そしてそのミサカ達には当然、打ち止めの存在も含まれている。
番外個体は言った、自分は負の感情を表に出し易いように調整されている、と。
あの番外個体が一方通行をあれほどに憎悪していたのは人の手が加えられていたからであって、加えられていないミサカ達が今すぐ一方通行を殺そうとするということはないだろう。
だがこの傍らの少女は、打ち止めだ。ミサカ達の上位個体であり、ミサカネットワークのコンソール的役割を担う少女だ。
ミサカネットワークに新たに参入した番外個体が持ち込んだ感情、一方通行への殺意と憎悪、その影響を他の個体よりも強く感じてもおかしくないのではないか。
目が覚めた途端、一方通行を憎悪の目で見るではないか。
(…、)
アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保して、そして目が覚めたら。
目が覚めたその時でなくとも。いつか『人間らしく』成長して、『恨み』という感情に気付いたら。
一方通行を憎悪し、敵と狙い、殺そうとしたら。
「…、」
一方通行は、打ち止めの額に触れた。風邪を引いた子供の熱を確かめるように。幻想殺しを持つ少年が触れたように。
…打ち止めが自分を殺しに来ても構わない、と思う。
アレイスターの企みをぶっ潰して、打ち止めの安全を確保した後なら、幾らでも相手をしてやる。
いくらでも恨めばいい。一方通行を守り、支えたその小さな手で、一方通行を殺しに来ればいい。
それでも、一方通行は彼女に殺されてやる訳にはいかない。
打ち止めは自分とは違う。
相手が敵なら、自分と同じ悪党なら幾らでも殺せる、そんな世界の人間じゃない。
敵でも味方でも関係ない、人を殺すこと自体に耐えられない、表の世界の人間だ。
『人を殺してしまった』罪悪感、自責の念、永久に消えぬ苦しみ、そんな物から打ち止めを守るために、一方通行は決して殺されてやる訳にはいかないのだ。
だから。
打ち止めが一方通行に与えるものならば、抱き締める腕も、殺そうとする憎悪も、全て受け止めて守ってみせるから。
「…さっさと起きろ、ラストオーダー」
そもそも彼は、ずっと昔に決めている。たとえ打ち止めを敵に回そうとも、打ち止めと彼女の世界を守る、と。
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21巻が出る迄のフライング妄想。
作者は一方通行さんに何か恨みでもあるんじゃないかと本気で疑った20巻でした。
タイトルはぺぺろんPのmikiオリジナル曲
「サテライト」より。
訂正。
打ち止めは眠りっぱなしじゃなかったですね。はい。列車の中で目覚まして一方通行と会話してますね。
ごめんなさいすみませんP30〜のことすっかり忘れてましたorz
ランカ・リーの婚約発表は全銀河を震わせた。
結婚式は来年の6月。女の子の憧れ、ジューンブライドである。
注目のお相手は芸能人ではないという理由で公表されなかったが、ゴシップ誌などには名前以外の殆どの情報が晒された。新統合軍のエースパイロットであること。女性と見紛う美青年であること。写真は目張り付きだが見る人が見ればすぐに分かる程度。また幼少時代は名門歌舞伎一座の女形として活躍していたことまで調べ尽くされており、当時の舞台写真まで発掘された。
その結果として。全く望まない形で銀河中の注目の的となってしまった当人は過去の自分と対面させられる気恥ずかしさに頭を抱え、婚約者を銀河中の注目の的にした当の歌手は婚約者の舞台写真を見て目を輝かせていた。
「わぁ、すごい。こっちの写真はアップだよ。すっごくきれい!」
「…あーそーかよ」
「きれいだし、女らしいし、すごいなぁアルトくん。どうしたらこんなに色っぽくなれるの?」
「…シェリルにでも聞いて来い」
一体何処からかき集めたのか、ランカの手元にはガッチガチの経済紙から3流ゴシップ誌まで、ありとあらゆる情報誌が鎮座していた。扱いの大小の差はあれど、その全てにランカの婚約発表の記事が掲載されている。
かつてバジュラとの戦争時にランカの歌は戦術的な価値を見出され、「現代のリン・ミンメイ」とまで呼ばれた。だがバジュラとの戦争状態が解除された今、ランカは政府高官に就いている訳でもなければ名誉職にも就いておらず、一介の歌手という立場である。ゴシップ誌ならともかく何で経済紙までこんなにデカい紙面を使ってるんだよ、とアルトは心の中で八つ当たりする。実際の所、今の彼女がどういう立場であれ、かつての彼女の功績があるからこそ一流紙でも取り扱われているのだが、完全にやさぐれ状態に陥っているアルトには真逆の発想まで思い至らなかった。
10年以上も昔の自分の舞台写真を次から次へと見せられるのはいっそ拷問で、今すぐランカの手から全部強奪したい思いに駆られたが、アルトは辛うじてその誘惑を押さえ込んだ。どんなに映りが悪い写真でもどんなに小さな扱いでも、ランカは1つ1つをじっくりと鑑賞していて、それはそれは幸せそうで、それはそれは可愛らしくて、邪魔をしてその笑顔を曇らせるのは勿体無い、と思ってしまったからだ。
惚れた弱み以外の何でもなく、またそれを自覚していても対処のしようがない。結果としてアルトははしゃぐランカを渋面で眺める羽目になっていた。
「これ、真っ白のお衣装だね。お嫁さんかな?」
「は…? ああ、鷺娘だろ。白鷺って鳥の化身って役柄だからな」
「ふぅん。…あ、ねぇほら、前にドレスの下見に行った時にこういうお衣装があったよね!」
「白無垢のことか?」
「そう! ジャパニーズウェディングドレス! ね、アルトくん、あれ着てみてくれな」
「絶対に嫌だ」
どれだけ瞳を輝かせようとも、どんなに可愛い彼女のお願いでも、どうしても越えられない一線というものはある。アルトにとってこのおねだりは正しくそれだった。
最後まで言わせることすら許さず、拒絶の言葉を怒涛のように畳み掛けた。
「あれは花嫁衣裳だ。お前ならともかく何でオレが着なきゃいけない。そもそもオレが歌舞伎をやめて何年経ってると思ってるんだ。今のオレは現役のパイロットだぞ。体格からして女形とは全然違うんだ、今更女の衣装なんか着れるか!」
「えー…。ダメ?」
「絶ッ対にダメだ」
「似合うと思うんだけどなぁ…」
可愛らしく小首を傾げられてもこれだけは譲られない。これ以上何か言われる前に、とアルトは鷺娘の写真を没収する。ランカは鷺娘に未練があるようで、むー、と子供のようにむくれてしまった。
それなりにしっかりしてきたと思うが、こういうところはやはりまだまだ子供っぽい。こういう顔をされる度に仕方ない奴だ、と甘やかしてきた兄貴もその要因の1つなのだろう。あのシスコン兄貴ならすぐに写真だけでも返してやるのだろうが、この件に関してはアルトは譲歩してやる気はこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
「ったく。そんなに気になるなら自分で着ろよ。似合うと思うぞ」
「え」
「ん?」
「そ、そうかなぁ? 私が着ても大丈夫かな?」
ランカは謙遜しつつも満更ではない様子、よし、とアルトはこっそりガッツポーズを作った。
「ああ、似合う似合う。だから自分で着ろ」
「…アルトくん、適当に言ってない?」
「言ってない。また来週に下見だろ、羽織るだけでも羽織ってみろよ。お前が着たところを見てみたい」
「…ほんとに?」
「ああ、本当だから」
「…うん。なら、着てみよう、かな」
控えめに微笑むランカに、アルトはほっと胸を撫で下ろした。今更舞台衣装を着るのだって嫌なのに白無垢なんて冗談じゃない。「アルトくんに着せる」から「自分で着る」まで転換できたのは予想外だったが悪くない結果だ。
そう、悪くない。アルトは女の子の買い物に付き合うのは苦手だし、ドレスの下見もいい意見なんて言えるはずもなく、はっきり言うと億劫で気が進まなかった。だけど、ランカの白無垢の花嫁姿が見られるなら話は別だ。
白無垢に身を包んだランカはきっと、純真無垢そのものの、綺麗な綺麗な花嫁なのだろうから。
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私のマクロスFの知識は「イツワリノウタヒメ」とwiki先生だけです。
間違ってる所や矛盾のある所も多々あると思います。今の内に謝っておきます。すみません。
あとタイトルも語呂だけで決めたので、意味はあまり考えないようお願いします。直訳すると結構間抜けです。
「…って言うことがあったんですよ」
「…ぷぷ。それいい…! それいいわ、ランカちゃん!
アルト、あなたも花嫁衣裳を着なさいよ。そうしてランカちゃんと2人の花嫁で並んで見せて!」
「ほらアルトくん、シェリルさんもこう言ってるよ。絶対に似合うって!」
「…お前らいい加減にしろよ…」