獄寺女体化シリーズその5。
その1・2の後くらいの話です。
豪華絢爛って言うのが相応しいホールには100人は軽く超える大人数が集まっていた。それだけの人数がいるにも関わらずホールが狭いという感じは全然ない。つまりそれだけ広いってことなんだけど。
ワルツに合わせて踊る人が半分くらい。残りは談笑してる人がほとんどで、その談笑の内容って言うのが、男が女を口説いてるっているのが大半だ。手練手管を駆使して女性に話しかけて、上手く行ったらワルツに加わる。失敗したらまた別の女性を見つける。
(すごいよなぁ…)
何であんなにエネルギッシュにナンパし続けられるんだろう。振られたらあっさりはい次って切り替え良すぎだろうに。その切り替えだって適当に目についた女性なら誰でもいいって訳じゃないんだもんな。いつでも口説く相手には直球で本気になってるんだから、ほんとにイタリア男ってすごい。
「10代目? こんな端で何なさってるんですか?」
「あ、獄寺くん」
こういう夜会とかパーティとかいう場にはそれなりに慣れたけど、やっぱり自分が似合うとは思わない。目的の商談が終わった後は自由行動な時間で、ボンゴレのボスっていう立場の人間にすり寄りたい女の人がやってきたりもしてたんだけど、今オレは壁の花になってた。
…いや、花じゃないけど。オレ男だし。
「何もすることないから、ぼけーって突っ立ってた。獄寺くんは? 用事は終了?」
「はい、滞りなく」
獄寺くんは普段はこういう場にもスーツ姿で来ることの方が多い。けど、今日はオレの希望でばっちりドレスを着てる。この前囮をしてもらった時のドレスアップ姿がまた見たいな、ってお願いしたら、結構あっさり聞いてくれた。ちょっと照れくさそうにしながら、だけど。…そういうところ、可愛いよね。
「それより、さっきまで身の程知らずな女たちに群がられていましたよね? 全員追っ払ったんですね、流石です!」
「いや追っ払ったって言うか、自然に離れて行ったって言うか。ほらオレって気の利いた口説き文句の1つも言えないからさ」
イタリア男の口説きテクニックに慣れてるイタリア女性にはロクに褒め言葉の1つも言えないオレなんて問題外だ。ちょっと話しただけですぐに見限られた。ま、オレはその方が助かるんだけど。こんなパーティーで出会った女の人を口説くつもりなんて更々ないんだから。
「…口説き文句を言えるか言えないか程度で男の価値を決めるなんて、下らない基準です」
『ボンゴレのボス』が目当ての女性が群がってたのにイラついて、そういう女性がオレを見限るのにもイラついてるみたいだ。
獄寺くんの基準はいつも『オレ』だ。怒るのも喜ぶのも、――男の価値も。
「それじゃ、獄寺くんはオレの手を取ってくれる?」
「…」
差し出された手にちょっと吃驚したみたいで、獄寺くんはオレの顔と手を交互に視線をきょろきょろさせた。オレは手を取ってくれるのを根気強く待つ。
…イタリア男ならこういう時にまた何か女性を褒める言葉の1つや2つがスラスラと出てくるんだろうな。
でも生憎とオレは日本生まれ日本育ちの朴念仁で、イタリア男じゃない。好きな女の子を褒める言葉も中々言えない。
それでも、オレを選んだのは獄寺くんだ。
「…はい」
その手は躊躇いがちにだったけど、確かにオレに差し出された。
はにかんだ笑顔にオレが言えたのは、かわいいよ、なんて月並みにも程がある言葉だったけど。獄寺くんは物凄く嬉しそうに、物凄く可愛らしく、ありがとうございます、って満面に微笑んでくれた。
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イタリア男の口説きテクニックは本当にすごいらしいです。