平静を装うのは成功した。
家までは何とか持ちこたえた。
部屋に戻ったら、すぐに吐いた。
「…あー…」
気持ち悪い。胃の中なんてとっくに空っぽなのに嘔吐感は全然おさまってくれない。ひっきりなしに頭をガンガン殴られてるような感じ。勿論腹も痛いし、吐く時におかしな体勢で固まってたから、腰も変に痛い。胃液で喉が焼かれたみたいだ。ひりひりする。気持ち悪い。
中学生の頃から散々闘い続けてきたお陰で痛みを意識から切り離す方法なんてとっくに身に付けてるのに、今回ばかりはそれができない。痛みを切り離したらもっと酷いものがもっと酷くなっておれを襲いに来る。でも予想よりもずっとマシだった。
もっともっと辛くなると思ってた。その場ですぐに倒れて全部吐き出して気を失って1週間も目覚めない、みたいな。その間ずっと悪夢にうなされるんじゃないかって。
悪夢を見るのはこれからだろうけど、少なくともその場では吐かなかったし、その他大勢の部下にはバレない程度には平静を装うこともできた。おれって結構演技派だったんだ、なんてバカみたいなことを考える余裕もあった。
この程度で済んでることに喜ぶよりも、この程度で済んでることにショックだった。
「十代目」
「…うん」
差し出された水を一気に飲み干した。水差しごと持って来てくれたお陰ですぐにお代わりできた。でもそれもまた吐いた。そろそろ止まらないと脱水症状とか起きるんじゃないか? ゲーゲー言いながら余計なことばかり考える。銃弾1発。骨を砕く衝撃も肉を斬る感触もない。指をほんの少し動かしただけ、それで飛び出した銃弾が頭蓋骨を貫通した。たったそれだけ。
「獄寺くん」
「はい」
「幻滅する?」
「まさか」
「君ってホント、おれのこと甘やかしてるよね」
「そうですか? そんなつもりはありませんが」
「ははっ」
獄寺くんも山本もとっくに経験済みなのに、おれだけ未だに経験してなかった。それはおれがずっと嫌がってたからだけど、おれが嫌がってるからおれにそれだけはさせまいと獄寺くんが奔走してたからだ。文句1つも言わないで。これのどこが甘やかしてないんだよ。
「覚悟、してたつもりだったけど。全然だったな」
おれは今日、初めて、人を殺した。
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「LAST CROSS」の後の話っぽい。
最後にリボーンを書いてから半年近くが経過してました…。なんて怖ろしい放置っぷり…!