小話帳

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 基本的に書きなぐったブツの収納場所。オチのない話も有り。
 Fate(原作が18禁)とエロっちぃ話はネタバレ機能で隠してます。

  ある夏の午後(アスランとカガリ)
2008/07/17 ◆ 種・デス種
 ふらりと、カガリの頭が揺らぐ。

「あ、」

 カガリの傍に侍る手が支えるよりも早く、カガリは自分で持ち直した。
 じりじりと肌を焼くような夏の陽気だけれども、東屋にいるので直接の日差しからは守られており、微かに潮の香りのする風が心地良い。ついうとうととしてしまうのも仕方のないことだった。

「少し眠ったらどうだ?」

 無理をして起きていることはない、と告げる声に、カガリは嫌だ、と駄々を捏ねる。

「久しぶりなんだ、眠ったりしたら勿体無い」

 と、カガリは甘えるように傍らに寄り沿った。余計暑くなるぞと苦笑交じりの声、だが離れるようなことはない。
 頭の後ろに触れられた感触。髪を撫でられているのだと気付いて、カガリはくすくすと小さく笑った。

「くすぐったい」

 触れ合う体は確かに熱を篭らせるけれど、優しく触れてくる手は心地良い。その手の動きに酔いしれている内にまた眠気が襲って来た。

「お茶の時間になったら起こすから」

 だから眠っていい、と告げる声に抗いきれず、カガリの瞼は徐々に下がっていった。
 大切に大切に抱かれ眠るカガリは世界で1番幸せな寝顔で、カガリの寝顔を見守る顔もまた、世界で1番幸せな笑顔だった。


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 アスカガでだだ甘を目指してみました。
 時系列は多分、デス種の2、3年後くらい。恋人同士って言うよりもそれなりに年月を重ねた夫婦っぽいかな。

 2人の子供捏造ネタもやってみたくはあります。
 第一子は女の子希望。絶対に1人目は女の子がいい。2人目は男の子で、3人目も男の子かな。4人目は女の子がいい。5人目はー…
 って、何人産ませる気だ(笑)

  ほわいとでい。(幸村と政宗)
2008/03/14 ◆ 戦国BASARA
 弥生も半ばを迎えた頃。奥州の竜の下に、上田城主が重箱を携えてやって来た。

「…何だこりゃ?」
「先日のお礼でござる! 政宗殿がどのような物をお好みか分からなかったので、一揃え持って参りました」

 一揃えとの言葉通り、開いた重箱の中には何種類もの菓子がずらりと並べられていた。
 小豆たっぷりの羊羹、瑞々しい緑の草餅、香ばしい焼き色のみたらし団子に三色団子、あでやかな細工の落雁、そして春を先取りした桜餅。菓子屋でも開くつもりかという種類と量である。

「先日のっつーと…あれか。Chocolateか」
「左様。とても美味しゅうございました!」
「ああ…」

 幸村にChocolateを贈ったのは先月半ばのことだ。使いの者に絶対に14日に届けろ、それより早くても遅くてもOutだぜ!と厳命したのもはっきりと覚えている。
 その返礼を幸村が寄越すこと自体はおかしいことではない。幸村は何かと義理堅い性格だ。だがしかし、それにしても。

「Han,よりによって今日とはな」
「む、本日はご都合がよろしくなかったのだろうか? それならば失礼を…」

 早合点して早々に辞そうとした幸村の腕を引き寄せ、政宗はその肩口に顔を倒した。未だ雪が溶け切らぬ早春とは言え馬を飛ばして来たばかり、うっすらと滲んだ汗。もはや馴染んだその匂いに、確かに幸村が来たのだと、政宗はひそりと笑んだ。

「よろしくない? No way! これ以上はないBestなTimingだぜ?」
「はあ…?」

 べすとなたいみんぐとは何なのだろう、と政宗が話す異国語を理解できない幸村は戸惑うが、政宗の機嫌の良さからして悪い意味ではないのだろう、と判断する。
 肩口に政宗の顔がうずまっているから、幸村の頬を政宗の髪がちくちくと刺している。やや茶色がかった幸村の髪と違い、政宗の髪は緑の黒髪だ。貴人の女性にも負けず劣らずの艶やかさ、うつくしい、と思うのは、幸村の惚れた欲目だけではあるまい。

「…にしても多すぎだろ、お前。お前も食え」
「しかし、これは政宗殿への返礼にござる。某が食べるわけには…」
「いくら何でも俺1人で食える量じゃねぇだろうが。いいから食え」
「は、それでは失礼致す」

 それでも政宗が先に手を伸ばすまで待つ辺りが律儀だ。物を食べるには向いてない姿勢だが政宗は幸村の肩から体を起こそうとはしなかった。そのままで1つ、桜餅に手を伸ばす。
 なるほど、幸村が胸を張って持って来ただけのことはある。強すぎない甘みが桜の葉の塩漬けと見事な調和を作り上げている見事な桜餅だ。作らせたのはそんじょそこらの菓子匠ではあるまい。
 政宗が1つ食べ終わるのを確認してからようやく幸村も1つ手に取った。政宗と同じく桜餅、顔どころか全身で幸せを表現して好物の甘味を堪能している。幸村が甘味に舌鼓を打つ姿は只でさえ童顔の幸村を更に幼く見せて、それがどうしようもなく可愛いのだと、政宗は惚れた欲目と自覚しつつも楽しんだ。

 幸村には先月の14日にChocolateを贈った理由は教えていない。当然、翌月のWhite dayのこともだ。政宗が偶然耳にした異国のSt.Valentine’s dayの風習。その日の存在さえ全く幸村は知らぬことだと言うのに、他でもない今日、幸村はお返しを持って来た。St.Valentine.dayの翌月同日、正しくWhite dayに。

「ったく。信じられねぇ…」
「政宗殿?」

 堪えようもなく喉からくつくつと笑い声が漏れ出して、幸村は訝しげに視線を落とす。何か面白いことでも?と視線で問いかけて来る幸村に、政宗は一層口角を吊り上げた。

「今夜の寝物語にでも教えてやるよ、darling.」

 次の菓子を放り込むより先に、政宗は自分の唇を食わせてやった。
 そのくちづけがいつもより甘かったのは、口に残っていた甘味の為だけではなかっただろう。


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 幸村がわざわざ自分でお礼を持って来たのは、単に政宗に会いに行く口実が欲しかっただけだったりする。もっとも口実なんてなくても単純に「会いたいから」とゆーだけの理由でいつも会いに行っている子ですが。

  ばれんたいんでい。(幸村と政宗)
2008/02/14 ◆ 戦国BASARA
 如月も半ばを迎えた頃。上田城主の元に、奥州の竜から一つの塗り箱が届けられた。

「…これはいったい何なのだろう?」

 さして大きくもない箱の中身は、焦げ茶色の固形物。同封されていた文にはただ一言「食え」とだけ。

「食えと書かれておるからには食べ物なのだろうが、佐助、そなたは知っているか?」
「さあ、俺様も皆目。竜の旦那のことだから変なものじゃないでしょうけど」

 奥州筆頭の趣味が料理だと広く知られていることでもあるし、同時に比べようもなくプライドの高さを誇る人物でもある。その政宗が贈答物に食べられないような物を送ってくるとは思えない。しかも送り先は幸村なのだから。
 幸村は試しに一つ摘み上げて匂いを嗅いでみた。焦げ茶色という苦々しい色とは裏腹に、その香りはとても芳しく甘いものだった。元より甘いものが好きな真田幸村である、よし、と意気込み一つ、ぱくりと口に放り込んだ。

「むう、これは!」
「どーなの?」
「美味い!」

 どどーん、と派手な効果音を背負ってまで宣言することでもないだろうに、と佐助は思ったが、こんなのはいつものことなので今更ツッコんだりしない。

「実に甘くて美味しい! 若干苦味があるのもまた甘さを引き立てておる! さすが政宗殿、斯様に素晴らしい菓子をご存知とは!」
「へー、お菓子なんだ。良かったね旦那」
「うむ! 佐助も1つ頂いてはどうだ? とても美味いぞ!」
「…うーん、遠慮しときます。旦那が竜の旦那に貰ったんだから、旦那が全部食べちゃいなよ」
「うむ、それもそうだな!」


 て言うか。下手に旦那宛ての物を貰っちゃったりしたら、後が怖いし。




 後日。
 久方ぶりに幸村が政宗と対面叶った時に、例の菓子について尋ねてみたところ、「ちよこれいと」なる名前の舶来の菓子であることが判明した。
 唐突に「ちよこれいと」を贈られた理由は何度尋ねても愉快気に笑うだけで答えてくれなかったが、幸村が全部美味しく頂き申した、と礼を述べたところ、政宗は至極満足そうに頷いたとか。



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 はい、バレンタインなさなだて話でしたー。
 さなだてって言うか、真田主従ですけど。さなだて前提の真田主従って大好きなんだよ!
 さなだてはしっかりデキてる設定でお願いします。むねさまが贈る愛のバレンタインチョコレート。幸村は言われるまで気付きもしない、言われたら感激のあまり燃え上がって周囲の気温を5℃は引き上げます。


 16世紀末にチョコレートなんてあったの?とか、あったとしても日本に伝わって無いだろ?とか、そもそもバレンタインにチョコレートを贈る風習ってここ50年ってとこだぜ?とか、色々と突っ込みどころはありまくるのですが、そう言うのは一切無視でお願いします。
 そもそもBASARAってゲーム自体が史実を言い出したら切りが無いからね!

  アスランとカガリ その9
2008/01/27 ◆ 種・デス種
 獣は己の姿に感謝した。もし人間だったならさぞかし情けない表情をしているだろうから。



「遅くなってゴメンよ、カガリ。何ヶ月もこんなバケモノと一緒で怖かっただろ? だけどもう大丈夫だからね、このボクが迎えに来たよ!」
「…っ、帰れ! 誰が迎えに来てくれなんて言ったんだ!? 私は絶対に帰らないからな!」

 ユウナは今すぐにでもカガリに抱きつきそうな勢いだ。獣を警戒した兵士に止められなければ事実そうしただろう。ユウナとは対称的にカガリは身を固くしている。
 カガリの言葉など耳に入らないように――そしてすぐ傍にいる獣の存在も無視して、ユウナは役者のような気取った口調で続ける。

「ああ、カガリ。話は聞いたよ。だけどもう大丈夫、ボクが迎えに来たんだからそんなバケモノに捕らわれることなんてないんだ。それにしても酷いよねぇ、おじ様は。いくら留学中でいなかったからって、婚約者のボクにナイショでカガリをバケモノに差し出すなんて」
「ユウナァッ!!」

 男の口上はまだ続いている。だがもうカガリも獣も聞いていなかった。獣は意識は兵士達に向けたままでカガリを見詰めていた。
 カガリもまた獣を見詰めていた。知られたくないことを知られてしまったと、顔面を蒼白にして。

「…婚約者が、いたのか」

 獣の声は自分でも驚くほど低く響いた。何処か遠くで小鳥の鳴き声、その美しい高音との差が怖ろしい。

「違うっ! …いや、違わないけど…、でもあんなのは家同士の勝手な取り決めで、それに私がここに来る前にちゃんと解消してっ…」
「嫌だなぁ、カガリ。ボクはちゃんと分かってるよ。キミはとても責任感が強い子だからね、キミがボクとの婚約を解消したのも、おじ様の受けた恩を返そうと思っただけなんだってことはね。ボクは全然気にして無いから、早くボクの胸に飛び込んで」
「黙れユウナッ! 勝手なことを言うな! 私は私の意志でここに来たんだ、お父さまに強制されたからなんかじゃないっ!」

 カガリは必死になって否定する。獣に誤解されたくなくて。こんな男なんて知らない、私が好きなのはお前なんだと、全身で証明しようとしていた。
 婚約者がいたのは黙っていたけど、嘘を吐くつもりじゃなかった。迎えに来たからって帰るつもりなんか無い――お前を裏切ったりなんかしない、と。

 カガリとは対称的に獣は冷静そのものだった。カガリに婚約者がいたことには驚かない。それなりの名家なら生まれた瞬間に決められるのも珍しくない。カガリもその父親も一目で上流の人間だと分かる身のこなしだ。カガリがそうでもおかしくない。
 だから獣は全く驚かない。そして裏切られたとも思わない。

 獣は既にカガリの誠実さを知っている。決して押し付けがましくなく、楚々と獣に微笑み続けたあの日々。これ以上何も望まない、ただ傍にいさせて欲しいと望んだ必死の切なさ。
 その全てを獣は見てきた。そしていつの間にかカガリを受け入れていた。
 この昼尚暗い絶望の森で、太陽のような輝きを放つこの少女の笑顔に、獣はとっくに魅せられていた。

 だからこそ、獣はこの言葉を発する。

「…帰れ」

 この決定的な一言がカガリを傷つけると分かっていた。
 それでも――目に涙を溜めるカガリを見た瞬間、獣が抱いた感情は――



 ――罪悪感でも、後悔でもなく。例えようも無い、安堵だった。



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 人に言われて書き出した怠け者が通りますよー。

 話が佳境に入った感じですねー。凄い凄い。最初に書いたのが2005年の7月…うわー2年半かー。凄いぞー俺ー。よくここまで放置してるなー(笑えん)
 にしても、ユウナ喋りすぎ。芝居がかった説明セリフがこんなに似合う奴はそうそういないですよ。ええいユウナの癖に生意気な!

 そろそろ風呂敷を畳みにかからないとなーと思いつつ、キラやラクスなんかも出したいなーなんて思い始めてる馬鹿1人。これ以上キャラを増やしてたまるか、どれだけマゾいんだ俺…orz

  日番谷と雛森(BLEACH)
2007/12/20 ◆ その他・漫画
 誕生日おめでとう。




 西空に沈み行くは上弦の月。半月よりは肥え、しかし未だ望月には届かない。
 冴え渡るは冬の空。雲に遮られぬが故に留まらぬ、昼の陽のぬくもり。
 亥の刻も3つを越えようとする時間。最早眠りに付かぬ者の方が少ない夜更け。
 十番隊と看板を掲げるその宿舎を急ぎ歩くは、本来ならばこの場におらぬはずの者。

(ああ、もう…っ! どうしてこんな日に限って…!)

 五番隊副隊長、雛森桃。常ならば暢気と称される程に穏和な表情は焦燥を浮かべ、真冬だと言うのに汗までもうっすらと滲んでいる。
 極力音を立てないように、それでいて常に無いほどに足早に。彼女が向かうのは、この宿舎の主とも呼べる者の部屋。

 あまりに急ぎ過ぎていたからだろう。雛森は自分の足音を立てないようにと注意していたが、前方には不注意になっていた。曲がり角の向こうから明らかに足音が聞こえてきているというのに全く気付かないほどに。

「…あっれー? 雛森じゃない」
「あ、乱菊さん。こんばんは」

 十番隊副隊長、松本乱菊は雛森の挨拶に、こんばんはー、と軽く手を振る。二人は副隊長同士ということもあって比較的親しい間柄だ、普段ならば軽く立ち話をするところである。
 しかし挨拶もそこそこに、雛森はその場を離れようとする。

「ごめんなさい、急いでるから失礼します」

 松本の返事も待たずに歩き始めた雛森に、松本は悪戯めいた声をかけた。

「なぁにー? うちの隊長に夜這いー?」
「よば…! ちち違いますっ! 変なこと言わないで下さいっ、もう!」

 雛森は振り返ってまで否定するが、松本は背中を向けてひらひらと手を振っていた。まるで置き土産とでも言わんばかりの一言だ。もう、と呟いて、再度雛森は足を急がせた。

(もう、もうっ! 乱菊さんってば何てこと言うの!)

 雛森の目的地は確かに「うちの隊長」の部屋だが、しかし目的は断じて「夜這い」などではない。雛森と「うちの隊長」がデキていると一部で噂されていることは雛森も知っているが、雛森自身は絶対に違う、と否定している。
 確かに雛森と彼とは親しい間柄である。所属する隊の違う隊長と副隊長が名を呼び合っているのだから、それが付き合っている証左だと言われても仕方の無いことだろう。
 だが、違う。彼と雛森はそう言う関係ではない。

(だってあたしたちは…)

 目的の部屋に着いた。
 遅くになり過ぎたからもう眠ってしまっているかと心配していたのだが、幸い明かりが見える。驚かさないよう、しかし確実に聞こえる声量で、雛森は部屋の主に声をかけた。

「…日番谷くん」
「…ああ?」

 心底不審げな返事。入っていいのかな、と雛森が思案するよりも早く、障子は中より引き開けられた。

「…雛森? 何だ、こんな時間に」
「えへへ、こんばんは」
「ああ…、いい。とにかく入れ」

 誘われるままに雛森はこの部屋、十番隊隊長である日番谷冬獅郎の部屋に招き入れられた。
 流石に吹きさらしの廊下と違って室内は暖かい。日番谷は雛森を火鉢の傍に行くよう勧める。雛森自身は気にしていなかったが、彼女の手も顔も赤くなっていた。

「一体何なんだ? こんなクソ寒い夜に、何か急用か?」
「うん、今日中じゃないとだめだから」
「…?」

 雛森が紅潮しているのは寒さだけではないようだった。今日が締切で何かあったっけな、と日番谷は心当たりを探す。だが全く検討が付かないし、そもそも執務関係ならば他隊の雛森が来るのはおかしい。

「日番谷くん、分からない?」
「いや、全く」
「えへへー」

 日番谷は勝ち誇るように笑う雛森に少し顔を顰める。それと同時に懐かしいとも思う。
 こんな風に笑う時の雛森は、ひどく幼い。純真素直な性格そのままの笑顔だ。昔二人がまだ流魂街に住んでいた頃からずっと変わらない。
 何があってもこれだけは変わらない、変えさせない。そう誓わせるに充分な。

「じゃんっ、これ!」
「…ああ?」

 雛森が差し出したのは小さな箱だった。千代紙で綺麗に包装されている為に何が入っているのか全く分からないが、そう重量のある物でもない。この箱が何で、一体何の為に差し出されているのかも分からず、日番谷は首を傾げる。
 そんな日番谷の様子を見て、雛森はもう、と口を尖らせて、しかしすぐに微笑った。自分のことに執着する性格ではないけれど、それでも今日という日を忘れるなんて、と。

「誕生日おめでとう、日番谷くん!」
「…」

 満面の笑顔に祝福されて、ようやく日番谷は得心がいった。言われてみれば確かに今日は12月20日。日番谷冬獅郎の誕生日だ。

「…ホントに忘れてたの? 自分の誕生日だよ?」
「自分のだから忘れるんだよ。
 …まぁ、何だ。サンキュ」
「どういたしまして」

 開けていいかと許可を得て、日番谷は受け取った包みを開く。包み紙の下の箱の中身は墨が3本入っていた。
 日番谷に墨の良し悪しは分からないが、こうも大事に包まれていると言うことは、それなりに値の張る高級品なのだろう。
 高級か否かよりも、日常的に使う実用品を送られたことが日番谷には嬉しかった。以前十三番隊の浮竹に実寸大の自分の人形を贈られた時などは気持ち悪い上に使い様も皆無で困ったものだったから、尚更だ。
 幸せを噛み締めてほのかに緩んだ口元に、雛森は密かに安堵したのだった。

「遅くにごめんね。でも今日中に渡したかったから…」
「それはまぁ、いいけどな。お前普段からこんなに遅くになってるのか?」

 仕事遅ぇな、と揶揄する日番谷。そんなことないもん、と雛森はむきになって反論する。

「いつもは普通の就業時間に終わらせてるの! 今日に限って臨時の連絡会とか大量の書類不備とかが重なっちゃって…。これでも急いだんだよ?」
「…別に明日でもいいだろ、こんなの」
「よくないの! もう、日番谷くんってば自分のことなのに無頓着すぎ!」

 自分のことでもないのに怒りだす雛森に、日番谷は苦笑する。日番谷にはそこまで誕生日に拘ることを理解出来ないが、それでも自分を大切に思ってくれているからこその怒りだ。甘んじて受け入れなければならない。

「…えっと、それじゃ遅くにごめんね」
「ああ、ちょっと待て」
「え?」

 用も終えたことで早々に席を辞そうとする雛森に、日番谷は手元の紙袋を渡した。店名が印字された袋に入っていたそれは、流魂街にいた頃から馴染みだった店の甘納豆。日番谷の好物だ。

「これ…」
「婆ちゃんから差し入れが来てたんだよ。それ食ってちょっと待ってろ」
「ええ、いいよ。もう遅いんだし長居は…」
「茶くらい飲んでいけ。まだ体温まってないだろ、そんな状態で出て行ったら凍死するぜ?」
「凍死って…そんな大げさな」

 遠慮する雛森を尻目に、早々に日番谷は茶の準備に行った。
 こんな時間ではもう誰にも言いつけることも出来ない。お茶を飲もうと思ったら態々台所まで湯を沸かしに行かなければならない。
 雛森に温まれと言いながら自分は凍える廊下を通って台所まで向かっている、その馬鹿馬鹿しいまでの矛盾。

「…もう、シロちゃんってば」

 ぶっきらぼうだけど、とても優しい。雛森は堪えきれずにくすくすと笑った。
 手渡された甘納豆は昔と変わらず甘くて美味しい。今度の休みは一緒にお婆ちゃんの家に帰ろうと決めた。


 胸を焦がす恋情などは存在しない、しかし心を暖める情愛がある。
 そんな二人を敢えて言葉で表すとするならば、それは家族と言うべき優しい関係なのだ。



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 日番谷隊長、お誕生日おめでとうございます!!

 ってことで、お誕生日おめでとうございます小説でした。
 いやー凄いわ。気付いたの今日の夜の9時。お風呂入ってる時にふっと思い出してね。こりゃのんびり浸かってる場合じゃないって急いで上がって、急いでコレを書き上げました。
 ネタの貯蓄とか全然無かったのに、完全にゼロの状態から二時間弱で書き上げられるだなんて。愛情パワーって凄いね!(笑)