現代パラレルです。
この話だとあんまり現代関係ないけど、とりあえず甲斐とか奥州とかの国は町くらいの小さい単位で脳内変換お願いします。
とある冬の日のこと、真田の旦那がものすっごい上機嫌で帰ってきた。
「佐助、佐助! 素晴らしいお方と出会ったぞ!」
「へぇ、そうなの? それはそうとお帰り、旦那」
「うむ、ただいま帰った! 佐助、まこと世の中とは広いものだな! まさかあのようなお方がおられるとは、昨日までの俺は全く想像だにしておらなんだ!」
「ふぅん、そんなに衝撃的だったんだ?」
確か今日の予定は、吉例の奉納試合に供を許されて、奥州に行ってきたはずだった。奉納試合って言ったら普通は型一辺通りで終わるものだけど、旦那のこの興奮っぷりからするとそれだけじゃなかったんだろうなぁ。
とりあえず差し出したお茶を一気に飲み干して、一刻も早く伝えたいとばかりに旦那は声を張り上げた。
「お強い方であった! 武田のもののふ達をいともあっさり蹴散らされたのだ。あの精錬された型には見惚れたぞ! そして技量だけではない、あの敵を前にした時の蒼い臨光、正しく竜の如きお姿であった!」
「へぇ、竜の如き、ねぇ。それってもしかして、奥州の独眼竜のこと?」
「そうだ! 名を伊達政宗殿と仰った!」
へぇ。奥州の竜と会ったんだ。
旦那は知らなかったみたいだけど、奥州の独眼竜と言えばかなり名の知られた人物だ。20歳にも届かない若さで奥州を善く治める領主として、そしてそれ以上に、六爪流っていう変わった剣技を振るう超一級の武士として。
奥州へ行くって言うからもしかしたらって思ってたけど。この調子だと多分、いや絶対に、
「それで、そのお人と試合ってきたんだ」
「うむ」
「結果は? 旦那が勝ったの?」
「いいや、引き分けだった。まこと残念なことよ」
残念って言う割には旦那の顔は輝いてる。ほんと分かり易いなぁ、旦那ってば。
「佐助、俺は今日ほど武士を志した己を誇りに思ったことはない。あれほどの方と出会えたこと、そして刃を交わせたこと、天に感謝してもし尽くせぬ。
あの方と相対している瞬間、お館さまに稽古をつけていただく時とはまた違う昂ぶりが俺の全身を支配していた。刃と刃が交差した瞬間にこの身を貫いたのは真実蒼い稲妻であった。
そして伊達殿も同じ思いであったらしい。それはそれは晴れ晴れしいお顔でな、またやろうぜ、と仰って下さったのだ。あれは正しく、宿命と言うべき出会いであったぞ!」
決着を着けられなかったのは惜しい、だけどいつまでも決着など迎えずに戦い続けていたい。
稲妻と炎が巻き起こす竜巻の中心でただ2人、それが世界の全てだと言うように。全身全霊、一撃一撃に魂を込めて。力の限り撃ちあい、たとえ力が尽きようともこの魂の慟哭がお互いを求め続ける。
それほどの出会いを宿命と呼ばずして如何とする。
(あーあ)
1人でも暑っ苦しいお人だっていうのに、更に暑っ苦しいことになりそう。って言うかなるよね。もう確定事項だよね。
旦那が嬉しそうにしてるのを見るのは守役としては好ましいことだけど、それ以上に面倒が倍増してくれるんだろうなってのも丸分かりで、何とも手放しでは喜べない事態だわ。
「独眼竜の名に相応しい、強く気高く美しいお方であった。またと言わず今すぐにでも討ち合いたい心地だ!」
何かもう今すぐ奥州まで走って行きそうな勢いだ。帰ってきたばっかりだっつーのに流石にそれはいけない。先方に迷惑だって。
「そーお、良かったねー。ところで旦那、お風呂沸いてるよ。ご飯の前に入ってきなよ、汗かいたでしょ?」
「む、そうだな。では先に頂くぞ!」
「行ってらっしゃーい」
はい、お風呂に誘導成功。さて、風呂から上がってくる頃には旦那の興奮もひと段落してるだろうし、さっさと残りの支度整えなきゃねー。
旦那がいなくなったら体感温度で3度くらい下がる。ちょっと体をぶるってさせて、奥州は甲斐より寒いんだっけ、なんて思った。
「…伊達政宗、ねぇ」
俺様も直接本人に会ったことはないけど、風情を解する雅さと奥州の荒くれ共を率いるカリスマ性を併せ持つ、色々とぶっ飛んだお方なんだとか。
評判を聞く限りでは相当な強さのもののふらしいけど、それにしたって、
「めーずらしいこと。あの旦那が、女の人と試合ってくるなんて」
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ってことで、政宗さま女体化パラレルシリーズの序章だったりします。
序章とか言っておきながら、続きを書く予定はこれっぽっちもないのですが。そんなのばっかりだ。
ちなみに当然、幸村は政宗さまが女性だと気付いてません。おきれいな方だ!とは思ってますが、刀を持って戦っているからには無条件で男、と思い込んでます。男尊女卑とはまた違った意味で「男は戦うもの、女は守られるもの」っていう前提がある子なので。それにとにかく戦うのに必死で、性別まで気にする余裕自体がありませんでした。
女体化獄寺でツナ獄っぽく。
この前の「デンジャラス・ビューティー」の後日談と言うか、おまけ。
やっぱりドレスはボロボロになってちょっと目のやり場に困ったりした。
「十代目、どうぞ」
「あ、うん。ありがと」
休憩ってことで持ってきて貰ったお茶は、ありがたいことに日本茶だった。やっぱり一息吐く時はコーヒーとかより日本茶の方がいい。軽く見回してみたらオレ以外に配られてるのは紅茶らしくて(オレは湯のみ、他の人はティーカップだった)、わざわざ用意してくれたらしかった。
自分用の湯のみ(獄寺君も日本茶らしい)も持って来てて、獄寺君も定位置、オレのすぐ右側の席に座りなおす。
「…」
「…十代目?」
「…あのさ、獄寺君」
「はい」
当たり前と言えば当たり前だけど、今日の獄寺君の格好は、いつも通りのパンツスーツだった。カツラはとっくに取っ払ってるし化粧もしてない。…いやしてるのかもしれないけど、オレにはしてない程度にしか見えない。いかにも淑女って感じのたおやかな仕草なんて欠片もなくて、実用性一点張りのきびきびした動きをする。…間違いなく同じ獄寺君なのに、あの時とは全然印象が違う。
「ああいう格好って、もうしないのかな」
「ああいう、と言いますと? …あ、もしかしてあの女装ですか?」
「…そうだけど、いや女装とは言わないだろ」
何で女の子の獄寺君がドレス着るのが女装って言うんだ。それ言うなら普段のパンツスーツの方が男装って言うべきなんじゃ…。
「しませんよ、あんな格好。ジャマですし面倒ですし実用性の欠片もないじゃないですか」
「…そっかー…」
「あの、十代目?」
そう言うだろーなーって予想はしてたけど、やっぱり…。
「すごくきれいだったからさ、あんな時だけなんて勿体無いなーって」
「え」
そりゃ本人が嫌がるなら無理矢理着せる訳にもいかないけどさ。獄寺君ってせっかくものすごい美人さんなんだから、たまにはあーゆー格好してもいいと思うんだよ。「十代目のお傍に!」なんてばっかり言ってないで、もっと普通の女の子らしいこともいっぱいして欲しいのに…
…って、あれ? …ちょっと待てオレ、今何口走った。何か、獄寺君、物凄い真っ赤になってるんだけど…!?
「そそ、そうでしたか? あ、あはははは、ありありがとうございます十代目!」
「う、うん。あ、あはははは」
うわぁぁぁぁぁヤバイ何考えてるんだよオレ、きれいだとか会議の休憩中に言うことじゃないだろ! 獄寺君と2人っきりじゃないんだぞ、生暖かい視線もわざとらしい咳き込みも勘弁してくれ…!
獄寺君もオレも相当赤くなってて、結局元に戻るのに休憩時間いっぱい費やしてしまった。…休憩のはずだったのに逆に疲れたような気がする。
ちなみに獄寺君とは反対側のオレの隣に座ってる山本が「いやー若いっていいよなー」なんて呟いたりしてた。
…いや、山本。言いたいことは分かるけど、オレたち同い年だから。
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山本に「若いっていいよなー」って言わせたかっただけだったりする。
実際にイタリアでこーゆー事言ったら、生暖かい視線よりも口笛で囃し立てられるんじゃないかなーと思うんですが、マフィアの幹部がひゅーひゅー言うのも嫌だなぁ(笑)
女体化獄寺でツナ獄っぽく。
女体化苦手な人もいるだろうから、一応隠し。
「彼女」がホールに入った途端、ざわめきが起きた。
無理もない、って言うか、当然って思う。元がいい上に更に今はメイクからドレスから立ち振る舞いまで徹底的に仕込まれてる訳で、「絶世の美女」ってこういう時に使うんだろうなっていう美女っぷりだ。これで見惚れなかったら男じゃないよ。
「彼女」の視線が一瞬だけオレと交差する。
ホールの空気が自分の存在で止まったことなんか全然気付かない様子で(って言うか絶対に気付いてないよね…)、「彼女」がコツン、って一歩踏み出した。
完全に見とれてた状態から我に返った男共がわらわらと「彼女」に近寄っていく。男の壁が出来てしまってオレからは「彼女」が見えなくなった。
「…やっぱり止めよう」
「は?」
「やっぱり中止。そう各所に連絡。急いで山本!」
「いや中止って。今のところ順調だぞ?」
「ダメ。危険すぎる。ああっあの野郎何してんだよ馴れ馴れしい…!」
「彼女」を取り巻いてた男の1人が腰に手を回そうとした。ああもう今すぐ殴り飛ばしに行きたい。ふざけるなあの柔らかい腰はオレのだ!
「…あー、あのな、ツナ」
「だから止めようって言ったんだよこんなの! いくら獄寺君も納得してるって言ってもさせるべきじゃなかったんだって!」
いくら獄寺君が強いって言ってもやっぱり女の子なんだから、何処かに連れ込まれて押し倒されでもしたら、力じゃどうしたって男には叶わないんだし!
「大丈夫だって。そのために特注にしたんだろ、あのドレス」
「そうだけど、でもやっぱりダメだ!」
普通のイブニングドレスに見せかけて、実は隠しポケットを幾つも作ってる。リングと匣、それからダイナマイトも仕込んでる。「絶対大丈夫ですから安心して下さい、立派に餌の役割を果たしてみせます!」なんて本人は言ってた。…自分で餌とか言っちゃダメだろ。
「あのさ、ツナ」
「何」
いつの間にかメインターゲットも獄寺君の取り巻き状態の1人に入ってた。…予定通りと言えば予定通りなんだけど、だけど心配でどうしようもない。
だから、山本の次の一言は痛かった。
「今お前が中止させたら、獄寺が特訓したのも今我慢してるのも全部無駄になるんだぞ」
「…」
山本は怒ってるわけじゃない。オレを責めてるわけでもない。当たり前のことを言っただけだ。当たり前のことすぎるから余計に、今のオレには痛い。
「…分かった。ごめん」
「オレに謝ることでもないだろ」
「それもそうだね。…あとで獄寺君に謝っとく」
「そうしとけ」
多分「え、何で謝られるんですか十代目!」とか言われそうだけど。…心配したってとこだけは受け取ってくれると嬉しいんだけどな。
それから、オレは話しかけてくる人に適当に対応したり、獄寺君は別室に連れ込もうとする狼どもをいとも優雅にかわしたりしていた。ターゲットは見事にずっと獄寺君に食いついていた。餌の効果は良すぎるくらいだ。
そんなこんなで30分くらい過ぎた頃。予定通りの時間、山本の無線に連絡が来た。
「…お、ランチアさんから連絡来たぞ」
「何て?」
「オールグリーン。退路も確保したから派手にやれ、だってさ」
耳にかかった髪を直すフリで耳につけた無線に触る。
メインターゲットは確認済み。周辺の露払いはオールグリーン。退路も確保。後はボスの――オレの合図を待つばかり、だ。
「…了解。それじゃ、始めよう」
オレのゴーサインに合わせて、狼煙代わりのダイナマイトがあちこちで爆風を撒き散らす。
嬉々として取り巻いていた男達を張り倒す獄寺君を見ながら、終わる頃にはあのドレスもぼろぼろになってるんだろうな、なんて、ちょっと勿体無い思いにかられたりしていた。
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某姉御のにょた獄部屋の獄寺ピアニストな漫画のパクリ?とか言ってはいけません。自覚してますから(なお悪い)。すんませんでも書きたかったんです。
何かのパーティーに潜入?してメインターゲット?を獄寺君で引きつけておいて、まぁあれこれと騒動起こしてその隙にごにょごにょしようと企んでいるようです。そんなもんだと思ってください。適当極まりない。
ランチアさんの名前を出したのはちょっと名前だけでも出したかった私の乙女心?です。ランチアさんだいすき!
あとタイトルは映画『デンジャラス・ビューティー』から。予告編しか見たことないんですが(笑)、獄寺君ってデンジャラスな美人さんなのでぴったりだと思ったの。